ATDの風 HR Global Wind from ATD <第3回>「“ 学習(ラーニング)”をパフォーマンスと連動させる」役割
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
■ATDコンピテンシーモデルとHPIの位置づけ
2000 年以降における環境変化は非常に大きなものでした。デジタル、モバイル、ソーシャルテクノロジーによって人々の生活は大きく変わりました。グローバリゼーションが起こり、世界的な経済動向にもうねりが生じています。人口動態も変化しました。それにより、人材開発(TD:Talent Development)に求められる能力や役割もまた、変わりつつあるといえるでしょう。
そんな時代を踏まえ、ATDは2000年、改めてT&D 専門家に求められるコンピテンシーモデルを発表しました(図1、2014 年の改定版)。
かつては、組織のパフォーマンスを支援し、変革を促し、「研修」を提供することが中心的な役割でした。しかし、今やT&D専門家の業界スタンダードとして、包括的・戦略的視点から人材の能力を活かす施策実行、戦略支援を実施しています。2014 年には新たに専門研究機関(ATD Institute)を設立、業界全体とそれに関連するプロフェッショナルの養成に尽力するようになりました。
ATDが定めたコンピテンシーのひとつにHPI(Human Performance Improvement、図2)があります。行動科学やマネジメント学、組織開発、システム理論などの専門家によってつくられた、組織の問題を解決するための体系的アプローチです。HPIモデルは、これらの原則を共通のプロセスに統合し、パフォーマンス改善に結びつけるコンサルティングプロセスといえるでしょう。
「人事施策を含めた人材開発を、いかに組織のパフォーマンスに結びつけるか」「組織が実行している制度や研修をはじめとする施策導入を、どう統合的に捉え、効果的なものにすべきか」
―これら全てを検討し、変革過程のファシリテーションポイントを明確にしていくことが問題解決の鍵となります。
それは同時に、T&D戦略や組織変革の役割を担う企業内のコンサルタント、T&Dソリューションを戦略の視点から提供するコンサルタントに必要な専門性と言い換えられるでしょう。
つまり、HPIとは、研修、ファシリテーションのスキルや人材開発のツールでもなければ、ましてや単なる新しいプロダクト、サービスでもありません。
HPIの役割は、研修であれ、新制度であれ、人事にまつわるテクノロジーであれ、何かを導入する理由、「何のため?」を明確にすること。最適な施策の運用や組み合わせの実施を促すことです。
その目的は、施策がどのように「人」のパフォーマンスにつながっているのか、組織を期待される状態に導くうえで適切な施策の組み合わせ、解決すべき問題を浮き彫りにすること。システムとしての組織と人を踏まえ、自分たち自身の課題やあるべき姿を明確にし、変革をファシリテーションしていくことです。
HPIでは、さまざまなファシリテーション手法や分析ツールなども使いますが、重要な点は新しい手法の活用ではありません。あくまで、組織課題を包括的な視点で捉え、各施策のリンケージ(つながりや連動)をパフォーマンスに結びつけるものです(参照:ATDのブログ2016 年12 月29 日付 Chris Ross 氏)。