寺田佳子のまなまな 第18回 花道家 大久保有加さんに聞く 花と見つける新しい自分
今回の「まなまな」のお相手は、花道 家の大久保有加さん。“いけばな”を軸に国内外で活躍し、近年教育の場で注目を集めている「花育」にも力を入れています。次々と新しいことに挑戦する大久保さんの原動力について、色鮮やかなお花で溢れるフラワーショップを訪ねて、お話を聞きました。
醍醐味は“ライブ感”!
ホテルの一角にあるフラワーショップ・IKEBANA ATRIUM。かすかにジャズが流れ、色とりどりの花とグリーンが溢れる空間に、パチン、パチンと花鋏(ばさみ)の音が響く。
蕾が開き始めたソメイヨシノをじっと見つめて鋏を入れているその人が、今回の“まなまな”のお相手、花道家の大久保有加さんである。
「こうして優しく触れると、お花の雰囲気がふわっと柔らかくなるでしょう?」
なるほど、頑なに反っているように見えた桜の枝がそっと撓たわめられて、少し気どって「こんな感じでどう?」と囁ささやいているようである。
うわぁ~! 桜の見事な変身ぶりに思わず溜め息が出る。
大久保さんの“いけばな”に驚くのは、もちろん私だけではない。お話を伺ったのは、ちょうどベルギーでのワークショップと、米国フィラデルフィアで開催されたフラワーショーへの出展を終えて日本に戻ってきたばかり、という春の昼下がり。どちらも日本の花の品質の高さをアピールし、輸出を促進する農林水産省の事業の一環だったが、大久保さんはなんとフィラデルフィアで日本人初の“ゴールドメダル”を受賞したのだ。
26万人もの人が訪れる全米最大のフラワーショーに、日本から約50 種の花を約1000 本空輸し、さらに現地の竹を調達しての壮大な“いけばな”。成功の秘訣は何だったのでしょう?
「地元の出展者は1年がかりで準備するのに、私たちは展示資材の購入と制作をたったの4日で行ったのですから、もう大変(笑)。海外では、思い通りの状態の花を手に入れたり、設営するのは難しいので、『こうでなければならない』と決めつけずに臨むことが大切です。とにかく、現場で花と向かい合った瞬間に感じたことを大切にして、自然の美しさを最大限に活かすことだけに集中しました」
そうして出来上がった作品が最高の評価を得たのは、周りの展示とは全く異なる日本人ならではの世界観を見せたからでもある。
「競い合って潰し合うのではなく、お互いに引き立て合ってそれぞれを活かすのが“いけばな”の心です。周りを見ながら、日本の展示だけではなく、会場全体の美しさのバランスを考えながらつくったのです」
こうした「現場のライブ感」を生き生きと表現する姿勢は、母である花道家・州村衛香(すむらえいこう)氏のパフォーマンスを間近で見てきたから、と大久保さん。