おわりに まずは“自分ごと”に CSVが引き出す、社員の力
CSVとは何か
これまで多くの企業が重視してきたCSR(企業の社会的責任)に代わり、ここ数年、注目されるようになってきたのがCSV(共通価値の創造)である。共通価値とは、社会課題の解決という「社会価値」と企業の利益獲得という「経済価値」であり、この双方を追求するというのがCSVの考え方だ。
この言葉が広まったのは、マイケル・ポーター氏が2011 年に発表した論文がきっかけだ。だが、これまでもCSRという名の下で、社会的な価値を自社の利益に結びつける取り組みを行っていた企業もある。そういう意味で、企業の取り組みに追いつく形でCSVという言葉が現れたと考えるべきだろう、と名和高司氏は話す(OPINION1)。事業として取り組むことで、社会貢献以上のことができる。さらに、社会の要望・期待に応える事業に取り組むことは、企業の事業継続性(サステナビリティ)にもつながる。それがCSVを重視する企業が増えている理由だと考えられる。
ビジネス戦略としてCSVに取り組む際は、具体的に3つのアプローチがあるが(OPINION2、赤池学氏)、どの取り組みにおいても欠かせないのは、それを担う人材である。CSVを人材育成に結びつけるにはどうしたらよいのか、企業の事例を振り返ってみよう。
CSVを育成につなげる企業
CASE1 キリンホールディングス社員を現場に派遣し、本質を見極め地域の人と協業する力を育成
「健康」「地域社会への貢献」「環境の3つを柱としたCSVを経営戦略に据えるが、特筆したいのは「地域社会への貢献」の取り組みだ。例えば、ビールの原料となるホップの主要生産地岩手県遠野市を活性化させるプロジェクトでは、社員が現地に通い詰め、住民と話し合いを重ねる中で、課題が何か見極める作業からスタートした。集客のためのイベントを打ち出すも、初年度は赤字を計上。だが、社員が住民に本気で地域を活性化したいという思いを伝え、その実現方法について議論を進めることで、現在は住民の理解と協力を得、プロジェクトが進んでいる。この取り組みを通して社員が得たものは少なくないはずだ。