CASE 3 味の素グループ 経済価値と社会価値の追求は、経営の根幹 ASVを“自分ごと”にさせ 社員の意欲や、リーダーシップを醸成
“ 食”と“健康”をテーマに、130もの国・地域で事業を展開する味の素グループ。
「2020年度までにグローバル食品企業トップ10クラス入り」という高い目標を据え、
その強力な推進力と位置づけているのが、2014 〜 16年の中期経営計画から掲げている
「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」である。
事業を通じて社会価値と経済価値を共創する「ASV」は、
人財育成策とどう結びつき、社員の成長にどのような影響を与えているのだろうか。
●基本的な考え方 社会価値と経済価値を両立
■創業の志がベース
味の素の創業は1909年。前年に、池田菊苗博士が昆布だしの味成分がアミノ酸の一種、グルタミン酸であることを発見して「うま味」と名づけ、その製法を特許化した。事業家の二代 鈴木三郎助氏がうま味調味料「味の素®」を発売。そこには、「うま味を通じて粗食をおいしくし、 国民の栄養を改善する」という強い思いがあった。
この創業の志はコーポレートメッセージ「Eat Well, Live Well.」にも表れている。つまり、事業を通じて社会価値と経済価値双方を創出しようとするCSVの考え方は、以前から同社に根づいていた。それを明確化したのが「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」である(図1)。
「食を改善して人々の健康に寄与するという考え方は、創業以来変わりませんが、それを明確化し、より進化させていくために、ASVを制定しました。今まではCSRと呼んでいましたが、単なる社会貢献ではなく、社会貢献をしながら利益を追求するという形をめざしてきましたので、まさにCSVの考え方です。『地球持続性』『食資源の確保』『健康な生活』の3つの切り口で取り組んでいます」(グローバル人事部次長の髙倉千春氏、以下同)
例えば、「健康な生活」への貢献では、味の素を使うことで、減塩、満足感、栄養改善を図る効果があり、同社の商品「Cook Do ®」〈回鍋肉用〉は、簡便に調理できるだけでなく、肉と野菜をバランスよく摂れるメニューなので、野菜の摂取量を増やすことができる。
「ガーナ栄養改善プロジェクト」も、ASVの事例のひとつ。ガーナでは、離乳食としてコーンのおかゆ「koko」を食べる習慣があるが、必要な栄養素が不足している。そこで、アミノ酸で栄養を加えた「KOKO Plus」を開発・販売し、子どもたちの栄養バランスの改善を図っている。また、ベトナムでは、学校給食の普及を推進。現地の子どもたちの健康な生活と自社のシェア拡大を両立させている。
「食資源の確保」への寄与としては、味の素の原料となるサトウキビを精製する際に生じる副産物を肥料として活用する独自の「バイオサイクル」を構築。持続可能な農業に貢献している。
■持続的成長が狙い
同社は、社会貢献としてのCSRを否定しているわけではない。しかし、「事業として取り組むことで、単なる社会貢献以上のことができ、社会価値のある事業を行うことで、自社の事業の持続可能性も高まる」と捉えている。
「単なる寄付やボランティアではなく、事業として行うからこそ、経済循環が生まれ、持続的に行うことができます。経済価値だけを追い求めれば、短期的には利益が上がるかもしれませんが、持続的に成長していくためには、社会価値の創出も必要です。これは、世界のグローバル優良企業に共通する考え方です。消費者の皆さんは、ただ『おいしければよい』ではなく、健康でいるために『おいしくて体によいもの』を望んでいるのです」