OPINION1 “ 社会の役に立ちたい”は日本人の原動力 人間らしさを活かし、 日本企業ならではのCSVを実践する
企業の新たな社会貢献の形として注目を集める、Creating Shared Value(CSV)。
CSRとの違いはどこにあるのか、また人材開発はこのテーマにどう向き合うべきか。
企業経営とCSVの関係に詳しい、名和高司氏に話を聞いた。
なぜCSVが生まれたか
これまで、多くの企業が重視してきたのはCSR(企業の社会的責任)である。だが、ここ1、2年、CSV(共通価値の創造)に注目する企業が急速に増えつつある。CSRは、利益を追求せず、社会的責任のため「善行」を行うというのが主たる目的だが、CSVの目的は、経済的便益と社会的便益の双方の追求、つまり「社会に貢献しながら利益を出す」ということである(図1)。
なぜ今、CSRではなくCSVが求められているのか。そもそもCSRには本来の事業活動に付随して義務的に行うものという受け身の印象がある。外部からの要請に応えるだけではなく、事業と関連したテーマを選び、社会的な価値と同時に自社の利益にも結びつけることがCSVだとすれば、これまで先進的にCSRに取り組んできた企業は、その取り組みの中で、既にCSVを行っていたといえる。つまり、企業の取り組みに追いつく形で、CSVという言葉が現れたと考えるべきだろう。
この言葉が注目されたのは、経営学の大家であるハーバード・ビジネス・スクール教授のマイケル・ポーター氏が2011年に発表した論文『CreatingShared Value』がきっかけだ。同氏は、行き過ぎた利益至上主義は社会課題を生み出し、社会の持続可能性を低下させてしまうこと、そして経済価値と社会価値の双方を追求することこそが、次世代の資本主義のめざす姿だと提言したのである。
まさか、儲けることが企業の使命と説いていたポーター氏から「社会価値」などという言葉が出てくるとは……。ポーター氏に師事していたことのある私には、にわかに信じ難かった。
そこで2012年、来日した彼に直接話を聞くと、社会価値を重視する理由としてまず挙がったのがリーマンショックである。資本主義の暴走を止められなかった末に起こったのがリーマンショックであるならば、資本主義は悪なのでは、という論調が社会に巻き起こった。そこで、反資本主義的に振れ過ぎた流れを戻し、資本主義が社会問題やニーズに対応する効果的かつ効率的なシステムであることを、今一度示す必要があると考えたそうだ。
2つめはNPOやNGOばかりを是とする社会の風潮である。ポーター氏のかわいい教え子たちも、優秀であればあるほどNPOやNGOに進んでしまうと嘆いていた。彼は、このような組織は、誰かが創出した価値を正しく分配することはできても、価値そのものを生むことはできないと言う。企業こそが新たな価値を生み出し、富を生み出し、それを増殖させることのできる唯一の存在なのだ。したがって、若い優秀な頭脳を流出させないためにも、企業は社会貢献を行いながら利益を追求していく必要があるのではないかと考えたという。
日本企業はJ-CSVの実践を
GEやネスレをはじめとした、特に世界的なメジャー企業は、経営戦略としてのCSVに着手し成功している。日本でもCSVを重要視する企業は増えており、その流れは今後も続くだろう。だが私は、日本企業にはより強みを活かすため、“ 日本企業ならでは”のCSVを提唱したい。