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人材育成を“可視化”する! 第3回:「人材育成体系図」をどう構築し、活用するか
現場力を高め、変革をリードする人材の育成に欠かせないものは何か。
それは可視化できるような人材育成の「仕組み」をつくることである。属人的にならない仕組みを構築し、共有・運用していくことは、人材育成における基本ともいえるが、果たしてどれほどの企業でこれが確立されているだろうか。本連載は、経営と現場の視点で、人材育成の仕組みづくりについて解説する。
●「教育体系図」と「育成体系図」
今回は、「成長の可視化」を実現する際に社員の成長と育成のガイドとなる「育成体系図」について紹介する。
育成体系図とは、事業戦略に必要な「人材」を強化する手段を体系化し、企業が人材をどのように育成しようとしているかが、一目で分かるようにしたものである。私が講演を行う際、受講者にアンケートをとると、「育成体系図構築」を課題に挙げる人が一番多い。人材開発の担当者は、育成体系図は企業が人材育成にかける意気込みと実力を示すバロメーターであり、重要だということを認識しているのだろう。
だが、「育成体系図を持っている」という企業の方に話をよく聞いてみると、それは育成体系図ではなく、教育体系図であることが多い。そこで、最初に教育体系図と育成体系図の違いについて説明する(図1)。
2つの体系図の大きな違いは、その狙いにある。教育体系図の狙いは、能力を強化すること(能力強化/ 能力開発)であり、育成体系図の狙いは、人材を強化すること(人材強化/キャリア開発)である。
端的に言うと、教育体系図は、問題解決に必要な「能力」を強化する手段を体系化したものであり、短期的な視点を持つ一方、育成体系図は「人材」を強化する手段を体系化したものであり、キャリアパスを前提とした中長期的な視点を持つ。教育体系図を時系列的に整理してキャリアパスに結びつけたものが、育成体系図ともいえる。体系図を構築する際には、狙いや構築手法が異なるので、どちらを構築するかを明確にすべきである。
●育成体系図の狙いと機能
ここから、具体的な育成体系図の狙いと機能、そして構築手法について解説する。
(1)育成体系図の狙い
先述したように、育成体系図の狙いは人材強化とキャリア開発である。具体的にはまず、人材開発部門が育成手段を設計して、社員に提供することである。育成体系図は、社員に提供する育成手段の要求仕様となるのだ。
それは、社員にとってキャリアパスを実現するための「成長ガイド」となる。育成体系図は、社員の自己実現のためのロードマップとなるので、自分のキャリアパスを描き、自身の成長を計画することができる。
マネジャーにとっては、部下の育成計画を作成する際の「育成ガイド」となる。マネジャーは育成体系図を活用することにより、どのように部下を中長期的に育成するかを検討することができるのだ。
(2)育成体系図の構成
プロフィール
遠藤裕隆(えんどう ひろたか)氏
富士ゼロックス クラウド&メディア事業開発部 事業開発センター シニアコンサルタント。
電気・電子系CADシステムの開発を経て、2000年度からソフトウエア技術者の人材育成を担当。「人材育成の仕組み」の構築に取り組みながら、学習管理システムやスキルアセスメントを独自に開発した。2005年に日本e-Learning大賞(経済産業大臣賞)を受賞。