OPINION1 復習 組織開発! 今さら聞けない組織開発の全体像と 人事・人材開発部門の役割
日本企業では近年、改めて組織活性化や組織開発に対する注目度が高まっている。
この「組織開発」とは何か、ご存知だろうか。なぜ今、注目度が高まっているのか。
その理由や基礎知識、全体像を、日本における組織開発の研究と実践を推進している中村和彦教授に聞いた。
組織開発とは何か
「組織開発」とは、ごく簡単に言えば、「チームや組織を機能させること」である。組織における“関係性”を育むことにより、チームや組織を効果的で健全にしていく取り組みだ。関係性や風土に働きかけて発達・進化させていくところに特徴がある。
というのも、チームや組織は、人が集まるだけでは機能しないからである。「人材開発」によって個人の能力を高めることも大事だが、たとえ能力の高い個人が集まったとしても、各人の意識や行動がバラバラだと、十分な成果は出ない。そこで、個人と個人がお互いに信頼できる関係性を築き、協働を促すことで、“団体戦”として力を発揮できるようになることをめざす組織開発が必要になるのである。
今、組織開発が求められる理由
ここ数年、組織開発に対する企業の関心が大幅に高まっている。それにはいくつかの要因がある。
1つは、仕事の「個業化」が進んだことだ。IT化の進展や成果主義の導入を背景に、他者とのつながりが薄れ、「あなたの仕事はこれ」と役割を明確化する傾向が強まった。しかし、仕事は1人ではできない。どんな仕事にも前工程や後工程があり、他部門との連携も必要だ。ところが「個業」の意識が強いと、何か問題が起きた時、ともに解決する発想よりも、「お前が悪い」、「そっちを修正しろ」と責任のなすり付け合いになりがちである。
2つめは、時代が“VUCA”だということ。“VUCA”とはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧さ)の頭文字を取ったもので、先が読めない、変化の激しい状態を言う。常に新しい発想やアイデアを生み出すことが求められるため、個人のマインドや職場における関係性も、常に進化する必要がある。そのための、対話と協働による共創や、ともに学ぶことが不可欠だ。
ダイバーシティの進展も見逃せない。多様な人が働くようになって、今までのような日本人・男性・仕事中心という同質性の高い価値観を前提としたマネジメントは通用しなくなった。異なる考え方や見方を持つ人々が協働し、信頼し合いながら、違いを活かして仕事ができるよう、変わっていく必要がある。
もう1つ、時代的な背景として、人に対する関心の高まりがある。バブル崩壊後、業績至上主義の考え方が広まり、成果主義の人事制度が導入された。しかし、人間は機械ではない。業績を高めるには、組織や職場の中の、人と人との関係性も重要と認識されるようになった。組織開発を行うということは、「関係の質」や「思考の質」が高まることで行動が変わり、「結果の質」が高まる(ダニエル・キム氏の「成功の循環モデル」)という取り組みなのである。
研修だけでは解決しない
組織内の関係性を変えることは、もちろん人材開発によっても可能であり、既に多くの日本企業が取り組んでいる。コミュニケーションやリーダーシップ、コーチングやファシリテーションに関する研修などはいずれも、職場における関係性を変えるためのものだ。例えば、マネジャーにコーチングを学ばせ、部下との間で実践してもらうことで、部下との関係性を良くすることが可能になる。
だが、研修だけで全てがうまくいくわけではない。研修効果にはどうしても個人差があり、職場に戻って実践されるとは限らない。指示型のマネジャーの場合、ファシリテーションを学んでもピンとこないこともある。また、部下が会議活性化の研修を受けても、上司の行う会議が報告のみをさせるスタイルだと、部下の力で変えることは難しい。そうした際、職場の関係性や風土に働きかける組織開発の手法を用いることで解決できる可能性が広がる。