外国人材の心をワシづかみ! 日本発のマネジメント 第9回 THE FIRST 90 DAYS~海外拠点着任後の90日間行動~
世界の人材争奪戦において遅れをとる日本。
打開策は現地の人々のより深い理解、そして日本企業ならではの育成、伝統にある―。
異文化マネジメントに精通する筆者が、ASEANを中心としたグローバル人材にまつわる問題の解決法を解説します。
3カ月で環境に同期する
先月号で、「海外勤務は成長の大きなチャンス。この数年間を活かさなくてはもったいない」と述べ、具体的な自己啓発のコツを示しました。今回は、「海外勤務生活をどうスタートさせれば人生の転機となるか、組織に貢献できるか」について考えたいと思います。まずは、赴任して3カ月間に取るべき「最初の90 日間行動」を紹介しましょう。
「最初の90日間行動」はハーバードビジネススクールの教授、マイケル・ワトキンズ博士の同名の著書『TheFirst 90 Days』(Dr. Michael Watkins, Harvard Business School Press 2003)による考察を基にしています。
この考え方の前提は、「現地のことは現地の様子を見ながら少しずつ慣れていく」といったやり方では現実に合わない、というものです。赴任者や長期出張者は、ますます“VUCA”(Volatile流動的、 Uncertain不確実、 Complex複雑、Ambiguous 曖昧)になるビジネス環境や対人関係の中に入っていくわけですから、そのVUCA環境に、自分の意識と行動を同期させる必要があるのです。
海外勤務への移行プロセス
早速、図1で海外勤務への移行プロセスの全体像を見てみましょう。受け入れ拠点への初出勤の日から最初の90日間は「価値の消費」段階です。この期間は、赴任者にとって現地組織に自分の価値を“提供”するのではなく、時間、手間などによって“消費”する時期といっていいでしょう。住居の手配に始まり、車の免許取得、PCの使い方から社内のさまざまな規則や仕事の仕方に慣れていく段階です。
本人のアウトプットが始まるのは、90日を過ぎる頃。いよいよ「価値の創造」の時期に入ります。現地式の仕事の進め方と自分の進め方のアライメント(刷り合わせ)が機能し始め、成果が出てくる段階です。
消費の3カ月と創造の3カ月の終わる6カ月目(180日目)がいわゆる損益分岐点(breakeven point)。ここからが、本当の意味での貢献のスタートとなります。