第40回 世界で活躍する すし職人を育てる学校 福江 誠氏 東京すしアカデミー 社長|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
東京すしアカデミーは、日本初のすし職人養成学校。
ここでは「めし炊き3年、にぎり8年」といわれるすし職人の技を最短2カ月で学ぶことができるといいます。
なぜ職人を短期促成できるのか、その秘密に迫ります。
「実は今、世界中で空前のすしブームが起きています。世界のあらゆる国々で、すし職人が求められているんです」
そう熱弁するのは東京すしアカデミー社長の福江誠さんです。福江さんによると、2000 年ごろから北米、ヨーロッパを中心にすしブームが広がっていましたが、最近ではアジア地域、特に中国での出店が相次いでいるとのこと。2013年に世界で約5万5000店だった日本食レストランは2015年には約9万店と急増しており、この日本食人気を牽引しているのが、すしだというのです。
なぜ世界中の人がすしに魅了されているのでしょうか。すしの味はもちろんですが、すし職人のもてなし、技に惹かれる人が実は多いと福江さんは言います。「目の前で職人がネタを捌き、すしを握り、カウンター越しに直接提供する。そのスマートで洗練された動作が、海外の人の目には魅力的なパフォーマンスとして映っているのです。特に本場である日本の職人が握るすしは付加価値が高いため、高級店を中心に、技術レベルの高い日本人すし職人のニーズが非常に高まっています。日本人すし職人は、今、どの国に行っても就職できますよ」(福江さん)
すし職人が減る理由
このように、今や世界中から求められているすし職人ですが、日本のすし職人の数は減少傾向にあります。その理由は、「長期にわたる修業が敬遠され、職人志望の若者が減ってしまったから」。
これまで、すし職人になるには、中学、高校卒業後、見習いとしてすし店に入り、10 年以上の厳しい修業を積んでようやく一人前に―というのが一般的でした。最初は、出前や皿洗い、掃除などの下働きで、少しずつ魚の下処理などをやらせてもらえるようになり、その後、玉子や煮物、巻きものの担当に。数年経ってようやく握りをやらせてもらえる、といった具合です。
休憩をはさむものの、早朝の仕入れから深夜の閉店まで労働時間も長く、決して楽な仕事ではありません。
「昭和から平成の初期は、『とにかく東京に出たい。すし職人にでもなるか』という若者がたくさん集まったので、厳しい修業の中で10人に1人、いや100人に1人が生き残って職人になってくれればよかったのです。ところが、今は募集をかけても応募者が1人もいない、という状況です」
すし店の後継者不足は深刻で、回転寿司などのチェーン店と一部の高級店は拡大していますが、職人の修業の場となっていた昔ながらの個人経営のすし店は年々減少しています。
すし店に経営指導を行うコンサルタントをしていた福江さんは、この事態を憂慮し、すし職人の修業の場をつくりたいと、2002 年に「東京すしアカデミー」を設立しました。