「研修に向き合う姿勢とパフォーマンス改善に関する調査」より 研修をパフォーマンスにつなげるために 必要なものとは
どうすれば、社員が研修で学んだことを現場の仕事で活かせるのか―。
これは、多くの企業の人材育成担当者が抱える悩みである。
今回は、そのヒントを見いだすべく、ビジネスパーソンを対象に調査を行った。
彼らの学習スタイルや学びの姿勢に注目することで、研修で学んだことをパフォーマンスにつなげられる人材の特性を明らかにしていく。
1 はじめに
■大切なのは、職場での応用
社員のパフォーマンスを正しく評価し、その評価に基づき適切な報酬を与える。このような業績評価のプロセスは、パフォーマンス・マネジメントを実施するうえで非常に重要な要素の1つである。しかし、多くの研究者が指摘するように、「パフォーマンス・マネジメント(Performance Management)=業績評価(Performance Appraisal)」と考えてしまうことには大きな問題がある。なぜならば、パフォーマンス・マネジメントの目的は、業績評価自体にあるのではなく、業績評価を通して社員のパフォーマンスを改善させることにあるからだ。
求められるのは、業績評価に基づき、「なぜ、期待されたパフォーマンスを達成できなかったのか」「さらなるパフォーマンス改善のためには、何が必要なのか」といった問題を検討・解決することである。その意味では、パフォーマンス・マネジメントとは、社員の過去のパフォーマンスと将来のパフォーマンスとを結びつけるマネジメントということができるかもしれない。
したがって、パフォーマンス・マネジメントにおいては、「業績評価」に加えて、「人材開発」という要素が重要な役割を果たすこととなる。すなわち、パフォーマンスを達成するうえで必要となる能力・スキルと、社員の現在の能力・スキルとの間に存在するギャップを埋めることも、パフォーマンス・マネジメントの一部なのである。
しかし、必要となる能力やスキルを社員が獲得することは、パフォーマンスの改善にとって必要条件ではあっても、十分条件ではないという点には注意しなければならない。なぜならば、能力やスキル自体がパフォーマンスを生み出すのではなく、能力やスキルの活用や応用がパフォーマンスを生み出すからである。
したがって、パフォーマンス・マネジメントを効果的に実施するうえでは、能力・スキルの獲得をサポートするだけではなく、職場での応用をサポートすることも求められる。特に、この応用の問題は、On-JT(OJT)を通して獲得した能力やスキルよりも、Off -JTを通して獲得した能力やスキルにおいて、より深刻なものとなるであろう。実際に働く中で身につけた能力やスキルに比べて、現場から離れたセミナーや研修で身につけた能力・スキルは、具体的な仕事に結びつけることが難しく、多くの社員が「宝の持ち腐れ」としてしまうことが多いためである。
本稿では、パフォーマンス・マネジメントの実施において重要な役割を果たす「人材開発」の要素に関して、特に「研修を通して獲得した能力やスキルを、社員が職場で応用するようになるためには、何が必要なのか」という問題を検討する。
以下では、より正確な結論を導くことができるよう、直観や経験に基づく議論ではなく、定量調査の結果に基づく議論を行っていく。約500 名のビジネスパーソンを対象に行ったサーベイ調査の分析結果から、「研修の内容を応用し、パフォーマンスの改善につなげられているビジネスパーソンと、つなげられていないビジネスパーソンでは、何が異なるのか」という問題を明らかにしていく。
2-1【経験学習スタイル】 研修中に得た経験からどう学ぶか?
リーダーシップやコミュニケーションといった能力・スキルは、一方向的な講義を受けるだけでは身につかない。研修であればロールプレイなどに参加することで、実際に体験・経験することを通して学ぶ必要がある。したがって、研修の参加を学習の機会として活用するためには、自身が得た経験を知識へと変える「経験学習」を行うことが求められるのである。
経験学習のモデルを構築したKolbは、経験に向き合い、それを知識に変える際に人が用いるスタイルには、複数の異なる種類が存在すると主張した。したがって本稿では、「研修をパフォーマンスの改善へとつなげられるビジネスパーソンは、どのような経験学習のスタイルを持っているのか」という問題を検討する。分析を通して、経験学習のスタイルは「熟考型スタイル」「試行体験型スタイル」「観察型スタイル」※の3種類に区別できることが確認された。
※探索的因子分析を行った結果、これら3つの因子が抽出された。