OPINION3 上司と経営層を巻き込め! 実務で活きる教育の鍵は 研修前後のデザインにあり
研修の本来の目的は、社員のパフォーマンス向上にあるはずだ。
では、研修とパフォーマンスの“ 整合性”を高めるために、どのような学習の設計が必要なのか。
2016 年11月22日に開催された「ATD2016 JAPAN SUMMIT」の基調講演者で、研修の効果測定研究で知られるロバート・ブリンカホフ氏が解説する※。
※当日の講演内容と独自取材により構成。
研修は戦略か、福利厚生か
企業では、さまざまな研修やトレーニングが行われている。新しい業務のための訓練、パフォーマンスの改善、キャリア開発を目的としたものや、トラブル・ハプニングに見舞われた際の対応などである。
これらは何のために行うのだろう。答えは簡単である。自社のビジネスを成功に導くためだ。自社の戦略を遂行するための行動を促し、会社全体の業務パフォーマンスを引き上げることが教育訓練の目的である。
しかし、実際はどうだろう。あるテクノロジー企業の事例を紹介したい。その企業はリーダー層300 人に対し、年間4 万ドルをかけて1年間のグローバルリーダー研修を実施した。高額の費用を投資し、グローバルビジネスのさらなる発展を図ったのである。
ところが、衝撃の事実が発覚する。受講者全員にアンケートを行い、研修で学んだ内容を仕事に活かしたかどうか尋ねたところ、大半の受講生が「活かさなかった」、「特に活用しなかった」と答えたのである。
つまり多くの社員にとって、研修の多くは“Benefit(福利厚生)”の一環に過ぎないということだ。確かに、教育によってキャリアアップ、スキルアップが図れれば、会社に対する参加者のエンゲージメントは上がるかもしれない。しかし、それだけで終わってはいけない。最初に述べたように、研修の本来の意義は事業戦略のサポートにある。経営者は福利厚生ではなく、研修の触媒的な機能に対して投資をしていることを忘れてはならない。
Unrealized Valueの発掘
ところが、「研修と事業戦略が合致し、成果と結びついている」と実感できている企業の割合はそれほど高くない。私が35 年にわたり、コンサルティングや講演時に調査したところ、約20%という結果が得られた(図1)。ただし、研修によって結果に違いがあり、テクニカルスキルの研修では、「成果に結びついている」の割合はもう少し高いが、マネジメント研修の場合はより低い。
実際、研修後の受講者の行動を見ると必ずしも成果に結びついていないことが分かる。研修で得た知見やスキルを「一時期は仕事に取り入れた」、あるいは「一部、試してみたが途中で挫折した」という人は多い。全く活かせないという人もいる。仕事に活かし、パフォーマンスが向上したタイプはむしろ少数派である。私が知る経営者たちは、受講者の8割以上が行動変容を起こし、パフォーマンスが向上することを望んでいるが、現実は期待通りではない。
費用対効果の面から見ても、この状況はいただけない。だが、言い換えれば、成果に結びついていない部分にこそ、Unrealized Value(実現していない価値)が存在しているといえる。L &D(Learning and Development:人材開発)部門は、図1の少なくとも80%以上を、ブルーに変えていく必要がある。