SPECIAL COLUMN 行動の“きっかけ”を整える 望ましい行動を導く「仕掛け」のチカラ
人の“ 望ましい行動”を引き出す方法のひとつとして、ぜひ紹介したいのが「仕掛け」である。
つい試してみたくなる。普段の行動を変えてみたくなる。
そんな「仕掛け」のカラクリを第一人者に聞いた。
“仕掛け”とは何か
マンガ本の背表紙に、イラストの一部が描かれたものを見たことはないだろうか。次の巻にはイラストの続きが描かれていて、イラストを完成させると、自然と1巻から最新巻までを順序よく並べられる。大阪大学大学院経済学研究科准教授の松村真宏氏は、このマンガ本のような“仕掛け”を研究し、「仕掛学」を提唱する。
「“仕掛け”とは行動デザインのひとつです。私たちが日々直面する問題の多くは、自身の行動に由来するものです。また身の回りの行動には、その行動を導く“きっかけ”が深く関わっています。仕掛けとは、問題行動にアプローチし、より望ましい行動に導く“きっかけ”のことを指します」(松村氏、以下同)
仕掛けによって、無理なく望ましい行動変容を得られるなら、これを利用しない手はない。効果的な仕掛けには、どのような特徴があるのか。
仕掛学では、仕掛けを満たす3つの条件を「FAD要件」、Fairness(公平性)、Attractiveness(誘引性)、Duality ofpurpose(目的の二重性)として定義している(図)。
例を挙げよう。男性用トイレでは、便器周りへの“尿跳ね”が問題となる。そこで、便器の最も飛散しにくい場所に的のシールを貼ると、尿を的に当てて用をたすようになる。シールは、望ましい場所を狙って用をたす行動を促す“きっかけ”である。
この仕掛けをFAD 要件に当てはめた時、Fは説明不要だろう。Aについては後述する。Dは、仕掛けられる側は「尿を的に当てる」、仕掛ける側は「トイレをきれいに保つ」という目的の二重性が確保されている。