第1回 今、なぜ人材育成のグランドデザインなのか 遠藤裕隆氏 富士ゼロックス クラウド&メディア事業開発部事業開発センター シニアコンサルタント
現場力を高め、変革をリードする人材の育成に欠かせないものは何か。
それは可視化できるような人材育成の「仕組み」をつくることである。属人的にならない仕組みを構築し、共有・運用していくことは、人材育成における基本ともいえるが、果たしてどれほどの企業でこれが確立されているだろうか。本連載は、経営と現場の視点で、人材育成の仕組みづくりについて解説する。
●人材育成の課題
価値観の多様化、グローバル化、景気の低迷といった外部環境の変化の中で、企業が継続的成長を実現するためのカギとなるのは、現場力を高め、変革をリードする人材の育成である。だが、多くの日本企業では、効果的な人材育成の仕組みが存在せずに、暗黙知の世界で「属人的」に人材育成が進められているという話をよく聞く。
これは、日本企業における人材育成の最大の課題である。結果として、人材育成を担うマネジャーが、組織戦略を実現するためにどのような人材が必要か、どのように部下を育成すればよいかが分からない。個人の能力のばらつきにより、育成がうまくいく場合といかない場合も発生する。これは、経営トップが人材育成の重要性は理解していても、「人材育成の仕組み」の重要性を十分に認識していないからである。
私はこの人材育成の体系・計画を「人材育成のグランドデザイン」と呼び、その重要性を訴え続けている。本来ならば、人材開発部門がこの役目を担い、経営トップと現場を動かすべきなのだが、①どのような人材が必要か分からず(人材課題)、②どのように人材を育成していいかも分からない(仕組みの課題)ため、③経営トップに人材育成の有効性に対する説明責任を果たすことができないのである(図1)。
人材育成の仕組みができていないと、事業戦略を実現する人材ポートフォリオ企画(要員計画)を「どんぶり勘定」で策定することになる。それでは、事業継続に必要な人材を中長期的にタイムリーに確保することが困難になり、「人材リスク」を背負うことになる。これは、経営に対してQCD(品質、コスト、納期)の悪いインパクトを与え、最悪の場合には、必要な要員を確保できず、プロジェクトそのものが頓挫するという大問題に発展しかねない。
●立場別に見る課題と狙い
企業活動を担うのは、経営トップ、マネジャーなど管理者、営業や開発などの一般社員、人材開発部門などの人材育成のステークホルダーであり、彼らが人材育成の仕組みの対象である。したがって、人材育成の仕組みを構築する際に重要なことは、彼らステークホルダーの課題(ニーズ)をしっかりと把握することである。これができていないと、いくらリソースを投入しても、役に立たない仕組みが出来上がってしまう。そこで、ステークホルダーの視点で経営や現場の課題を整理したものが図2 である。
人材育成のグランドデザインの大局的な狙いは、このような課題の解決と、人材育成の仕組みを可視化し、運用していくことで、事業戦略を実現する人材を育成することである。
以下、それぞれのステークホルダー別に、人材育成の課題とグランドデザインの狙いをもう少し詳しく見ていこう。図2と左ページタイトル下の図を見ながら、読み進めてほしい。