経営的視点から見る未来 「飯・風呂・寝る」から 「人・本・旅」へ転換せよ
深刻な少子高齢社会を突き進む日本。
高度成長のベクトルが消失した今、政府や企業、そして個人は、どんな構造転換をしなくてはならないのか。
世界の政策や統計データ、そして経営に造詣の深い出口治明氏が知見を踏まえ、具体策を提言する。
高度成長を支えた3条件
―未来を考えるにあたりその前提となる、日本のこれまでと現状について、どうご覧になっていますか。
出口
高度成長と呼ばれた戦後の日本を支えてきたのは、“製造業を核とした長時間労働”で、それを可能にしたのが「冷戦」「工場主導のキャッチアップモデル」「人口増加」という3条件です。
ロシア・中国が太平洋に進出しようとすれば日本列島は大変な障害になるわけで、アメリカは冷戦の時代、地政学上、日本を重視しました。そのアメリカの庇護のもとで日本は経済成長を遂げたのです。その成長の核となったのが製造業。農業に従事していた若者を地方から都市に集め、生産性の低い農業から生産性の高い製造業に労働力をシフトさせました。
この製造業中心のキャッチアップモデルでは、24 時間操業が理想です。ベルトコンベアを休むことなく動かすことで生産性が上がります。かくして、早朝に出勤し深夜帰宅して「飯・風呂・寝る」の働き方が定着し、女性はそんな男性を支えるという明確な性分業が生まれました。
また、「人口増加」が経済成長に貢献することは、古今東西の歴史を見れば明らかです。
骨折り損のくたびれ儲け
―しかしその後、少子高齢化が問題視され、冷戦も過去のものになりました。産業地図にも変化が現れています。
出口
高度成長を支えた先の3条件は消え去りましたが、長時間労働と性分業の慣習は依然として続いているのが日本の現状です。
生産性が低いことが特に問題です。OECD34 カ国中、日本は時間当たり21 位で、G7の中では20 年連続の最下位です(図2、日本生産性本部調べ)。日本、ドイツ、フランスの労働時間と休暇を比較すると(図1)、2013 年の日本の1735 時間に対し、ドイツは1388 時間、フランスは1489 時間。夏休みは日本が約1週間で、ドイツ、フランスは約1カ月です。一方、ここ数年の平均成長率は、日本がわずか0.6%なのに対しユーロ圏は約1.5%(IMF2017ベース)。これでは、「骨折り損のくたびれ儲け」以外の何ものでもありません。