ワークスペースから見る未来 まだ見ぬ世界を創造する 「働き方3.0」とは
未来に向け、従来とは一線を画した発想を生み出していける環境として、人材や働き方、そして働く場は、どのように進化していくべきなのか。
イノベーションを生み出す機会や空間の研究と実践を進める、イトーキオフィス総合研究所所長の谷口政秀氏に聞いた。
楽しく働きビジネスにつなげる
―2030年ほどの未来を考える際、社会はどうなっていくことが予想され、それに伴い日本企業はどのような姿を描くべきでしょうか。
谷口
これからの社会を語るキーワードに、「経験経済」「マーケティング3.0」「シェアリングエコノミー(共有型経済)」などがあります。これらには、「場や経験、共感、共創、協働の機会のデザイン」という共通点があります。つまり企業には、生活者にどのような体験をもたらし、どのような社会を実現させたいのかということを起点に、モノやサービスを編み出すことが求められます。これは現在主流の、高度な“機能”を生活者に届けるという目線でのモノづくりを、はるかに越えたものです。
―そうしたモノやサービスを生むには、企業がどういう場になればいいのでしょう。
谷口
一言でいえば「社会をよくするプラットフォーム」。そのイメージは、現在のたまプラーザ(横浜市)の取り組みに近いものです。たまプラーザは昭和40年(1965年)ごろから都心に勤める人のベッドタウンとして開発が進みました。団地の老朽化などによる町の再開発、そして定年を迎えた多くの住民の“第二の人生”を考える時期に差し掛かり、市と鉄道会社の協力を得ながら、住民主体の町づくりを始めています。
―どのようなものなのですか。
谷口
まず、町の中心にあるカフェに、住民のプロフィールや特技を貼り出します。例えば私なら「アウトドア教室できます」といった具合です。すると「子どもに釣りを教えられなくて困っている」などとお父さんから相談されるんです。そうして希望者が集まったところで、教室を開きます。すると参加した人同士で知り合い、地域とのつながりが生まれます。少額ですが、レッスン料もいただきます。そもそも、自分では大したことないだろうと思っていた能力を周囲に共有できる。そうしたゆるい関係の連鎖で地域経済圏をつくっていこうという試みです。
―面白いですね。ポイントは。
谷口
3つあります。まず、人の多様性です。私のようなアウトドア好きなおじさんもいれば、かつて体操番組に出演していた体育大学出身のママさんインストラクターなど、年齢もキャリアもさまざまな人が集まっています。
2つめは、コミュニティーに拘束力がないことです。普段は皆さん別のところで活動しながら、自分の能力を地域という場に提供しています。
3つめは、趣味や特技の活かし方を、気軽に試行錯誤できる点です。例えば、ご一緒している方の中にアジア地域への旅行と料理が趣味の男性がおり、食堂を開くほどでもないけれど料理の腕を試す場がほしいと考えていました。そこで、エスニック料理が好きな人に向けて料理会を開いたり、私のアウトドア教室でBBQを担当してもらったりと、さまざまな形を試しているんですね。