AI から見る未来 AI時代に活躍するのは 情報精査・判断力、共感力のある人材
幅広い分野でAI(人工知能)の活用が進んでいる。
AIは人から仕事を奪うのでは、という懸念もあるが、日本IBMの行木陽子氏は「AIはベース技術。そこに施すソリューショニングによって、気の利く私設秘書にも、高度な知識を持った専門家にもなる」と示唆する。
AIとソーシャルウェアの専門家が予見する、近未来の働き方とは。
多様な人材活用にITが貢献
―IT企業の視点では、2030 年ごろの日本人の働き方はどうなっていると予測されますか。
行木
現在、既に課題である労働人口の減少がますます顕著になり、多様な人材の活用が企業の成長にとって必須になると予想されます。
特に今は女性の活躍が注目されていますが、もう少し幅広い視点で、国や地域を越えてさまざまな状況にある方に働きやすい職場を提供し、成長を図る企業が増えると思います。
私自身も、アメリカ・ヨーロッパ・アジア各国の社員と協業することが増えました。細かい議論が必要な際は対面で行うことが好ましいですが、ビデオ会議を使えばリモートでも表情を確認し合いながら議論を進めることができます。これからは、育児や介護に関わる人や海外勤務者でも働きやすいインフラを整えて、労働力を確保していく必要があります。
そうした、多様性に富んだ労働環境の実現に、ITが大きな役割を果たすと考えています。
情報解析で効果実証
―話題の「AI」は、多様な働き方の実現にどう貢献するでしょうか。
行木
AIの自律した学習力が生産性の向上へ大いに役立ちます。当社ではそれを「コグニティブ・コンピューティング」と名づけています。
コグニティブは「認知・認識」を意味します。システムが情報から学び、仮説を立て提案し、その経験を記憶してまた学習するという、人間の脳のように働くシステムです。
近年「AIは人間の仕事を奪うのではないか」とよく議論されています。確かに、AIが職場に入ってくることで、特定分野の仕事は減るかもしれませんが、時流に柔軟に対応して、やるべきことを見いだすのは人の役割です。
AIの機能は、複数の分野で、その実用的な効果が実証されています。例えば2016 年に、当社の意思決定を支援するコグニティブ・コンピューティング・システム「IBM Watson(ワトソン)」が、10分ほどで難症例を見抜き、医師に適切な治療を提案したことが話題となりました。Watsonが膨大な量の医学論文を学習し圧倒的なスピードで症例と照らし合わせたことで特殊なタイプの白血病だと分かり、正しい治療を施すことができたのです。
今後ますます、地道な情報収集や情報の解析をAIが担うようになり、人はその妥当性を判断して決定を下す行為を中心に働くことができるようになっていきます。