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巻頭インタビュー 私の人材教育論 「やってみなはれ」に 込められた人づくりの本質
「キャリア支援企業表彰2013」において厚生労働大臣表彰企業として選定されるなど、社員の成長支援で評価を受けているサントリー。
2015 年には人材育成を強化するため、「サントリー大学」も開校した。
その根底にある哲学「やってみなはれ」の言葉に込められた人材育成に関わる思想を、鳥井信吾副会長に聞いた。

創業の精神を理解し、本質を極める
―グローバル展開に力を入れ、売上高2兆6800億円を超えるサントリーグループが、今後めざす姿をお聞かせください。
鳥井
めざす姿を一言で表すなら「本質を極める」となるでしょう。当社は、酒類、飲料・食品、健康食品、外食という4つの領域で事業を展開しています。その全てを、創業者である鳥井信治郎が創り上げ、歴代の社長と社員が継承してきた企業文化に沿いつつ極めていく。これが我々の目標とするところです。
もちろん、時代の要請によって変えていかなければならない部分はあります。けれども、変わらない、変えてはならない事業の本質もある。その本質を、常に追求していく。企業文化というのは目には見えないけれども、例えば各家庭に家風があり、国に国民性があるのと同じようなものでしょう。それを過去から引き継ぎ、時代時代に合わせて創り続けていくことが大切だと思います。
―本質を極める、ということですが、例えば、ウイスキーの本質を表現すると、どのようになるのでしょう。
鳥井
これを言葉で言うのは難しい。例えばソムリエがワインを表現する時には、カシスの香り、森の中の落ち葉の香りなど、多種多様な言葉を使います。ウイスキーでもナッツの香りやハチミツのような香りなどと言います。しかし、これらはあくまで表現です。よいものをつくろうとする時に、大抵の言葉は役に立ちません。言葉で表現できる世界ではないのです。ウイスキーの本質とは、テクスチャーや肌触りのようなもの。よいウイスキーを飲んだ時の満足感というのは、寒い時にオーバーを羽織ってほっと温まるとか、そんな感覚に近いものだと思います。
酒の歴史をたどっていくと、恐らく言葉の誕生と同じぐらいまで遡るのではないでしょうか。どちらの歴史も諸説ありますが、人類と酒の関わりは、それぐらい原初的なものだと思うのです。人間の一番根幹に関わるものであり、簡単には言葉にならない。だからこそ、常に本質を考え、求め続けることが必要であると思います。
人材育成と同期のつながり
―本質を極めようとする御社で、その担い手となる人材の育成に関して、大切にされているポイントをお聞かせください。
鳥井
まず、社員が能力を開発・発揮しやすい環境づくりに努めています。これに基づき、入社時から退職に至るまでの間、体系立てたキャリア開発を行っています。具体的には、入社時の新入社員育成研修、フォローアップの4年次研修、新任プロフェッショナル研修、新任マネジャー研修、そして新任部長研修などがあります。
こうした年次研修で培われるものと同じように重要なのが、同期の強力な絆です。同期会はほとんどの年次で年に1回は行われているようです。そこでは、たとえ役員と課長であっても君づけで呼び合うことができる。同期のネットワークは強力で、これも当社の企業風土といえるでしょう。
―2015年には「サントリー大学」を設立されています。
プロフィール
鳥井信吾(Shingo Torii)氏
サントリーホールディングス 代表取締役副会長
生年月日 1953年1月18日
出身校 甲南大学理学部、南カリフォルニア大学大学院修了
修士(M.S.) (微生物遺伝学)
主な経歴
1980年 4月 伊藤忠商事 入社
1983 年 6月 サントリー 入社
京都ビール工場、山崎ウイスキー工場 勤務
1987年 9月 大阪工場長
1992年 3月 取締役
1994 年10月 生産第1部長(ウイスキー担当)
2001年 3月 代表取締役専務取締役、SCM本部長
2003年 3月 代表取締役副社長
生産研究部門担当、マスターブレンダー
2014年 5月 米国ビームサントリー 取締役
2014年10月 サントリーホールディングス
代表取締役副会長
現在に至る
企業プロフィール
サントリーホールディングス
創業1899年。酒類や飲料を中心に幅広い事業をグローバルに展開。創業以来、受け継がれている「やってみなはれ」の精神がその原動力である。
資本金:700 億円(2015年12月31日現在)、連結売上高:2兆6868億円(2015年12月期)、連結従業員数:4万2081名(2015年12月31日現在)
インタビュー・文/竹林篤実
写真/大島拓也