第39回 住宅の劣化を見抜け! ホームインスペクターの学び 川野武士氏 ホームインスペクター 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
「今の小学生の65%が現在、存在しない職業に就くだろう」という未来予測があるのをご存知だろうか。
実際、新しい職業が次々に誕生しつつあるが、住宅の劣化を診断するホームインスペクターもそのひとつだ。
時代が求める仕事に挑戦するベテランたちを取材した。
ホームインスペクターとは、主に一戸建てやマンションなどの中古住宅の「劣化の状態」を診断する専門家を指します。近年、需要が高まっており、2009 年からはNPO法人日本ホームインスペクターズ協会が認定資格制度を始めています。
ホームインスペクターの需要が高まっている背景には、中古住宅市場の拡大があります。日本ではこれまで新築住宅が重視されてきましたが、人口減少時代を迎え、中古住宅ストック(在庫)が増加。空き家が増えていることもあり、政府も中古住宅市場の活性化を後押しする方針を掲げています。
そこで新たな課題となっているのが、中古住宅の査定の整備です。中古物件を売買する際は、建物の状況把握が不可欠ですが、劣化の程度を判断するには、不動産や建築の知識とはまた違った専門性が必要です。そうした中で、第三者的な立場で建物の劣化状況を診断する専門家、ホームインスペクターが求められるようになってきたのです。
今回は住宅診断を手がけるさくら事務所を訪れ、住宅業界における新しい職業、ホームインスペクターたちの学びを取材しました。
見えない漏水、傾きを指摘
ホームインスペクションとはそもそも、どんなことをする仕事なのでしょうか。
ホームインスペクター歴12 年という川野武士さんによると「建物の外観を見て、外壁のひび割れなどをチェックするところから始まり、床の傾きや天井の雨漏りなど室内の状況、キッチンや浴室の水回りの配管といった給排水設備や換気設備など、家全体をくまなくチェック。床下や屋根裏にも入り込んで構造部分も確認し、住宅の劣化の状態や不具合がないかを診断します」とのこと。
チェック項目は100以上にわたります。事例として多いのは「雨漏りや漏水で屋根裏が腐っていた、など外からは見えない部分の問題。建物の歪み、傾きといった、住んでいる方でも気づかない劣化もあります」(川野さん)
依頼主は新築、中古住宅の購入を検討する個人がメインです。購入の判断材料にする他、購入後、改修すべき箇所はどこか、住むうえで気をつけるべきところはどこなのかを知りたい、というニーズもあります。