CASE 2 郁文館夢学園 早期レジリエンス教育 ストレスフルな社会でも活躍できる “生きる力”を高める
独自の「夢教育プログラム」により、社会で輝ける人材の育成をめざす郁文館夢学園。
同校は、中高生に対して、充実したレジリエンス教育を行っている。
特に、約1年間の海外留学を経験する郁文館グローバル高等学校では、3年間で10 回に及ぶプログラムを実施。留学や大学受験のストレスを乗り越え、さらには、グローバル社会で活躍できる“生きる力”、“タフネス”を身につけさせる。
●導入の背景 根性論では乗り切れない
郁文館夢学園には、「夢教育」という独自の教育プログラムがある。国際社会で活躍する人材の育成を目的とした郁文館グローバル高等学校では、その一貫として、生徒全員が高校1年生の1月から約1年間にわたる海外留学を経験する。
留学先はニュージーランド、カナダの提携校だが、「1名1校」を原則とし、日本の保護者や級友との電話・メールも原則禁止。生徒たちは約1年間、日本人と接することがほとんどない環境で学ぶことになる。
10年ほど前に始めたこの施策によって、生徒たちは大きく成長しているが、その一方で、これまでに経験したことのない逆境に直面し、心が折れそうになる子もいる。
そこで2013 年に導入したのが、レジリエンス教育である。講師は、レジリエンス研究の第一人者でもあるスクールカウンセラーの鈴木水季氏だ。
教頭の土屋俊之氏は当時の経緯を次のように説明する。
「グローバル高校の生徒は、親元を離れて1年間、異国の地に行くわけですが、留学前・留学中・留学後とさまざまな段階において大きな環境変化にさらされます。そこで自分の心の状態をうまくコントロールできればよいのですが、時には制御の限界を超えてしまう場合もあります。元の状態に自分で整えていくスキルを身につけさせたい、と考えたのがきっかけです」
海外留学に憧れて入学する生徒は多いものの、彼らのほとんどは長く親元を離れた経験がない。それだけに、留学時期が近づくにつれ不安が募り、学校に来られなくなったり、カウンセラーのケアが必要になったりする生徒もいる。当然、留学先で悩みを抱える子も多い。「言葉が思うように通じない」、「友達ができない」、「ホームシックにかかってしまった」などだ。
日本に戻れば大丈夫かというと、そうとも言い切れない。個を尊重する海外の文化に触れた生徒には、“逆カルチャーショック”が待ち受けている。日本特有の同質性の高い人間関係が受け入れられなくなるのだ。また、その頃になると、大学受験への不安も大きくなってくる。
困難や逆境に直面した場合、「気合いで乗り切れ」などと指導する大人もいるかもしれない。しかし、同校の考え方は違う、と土屋氏は言う。
「体育会系の根性論だけではメンタルタフネスは鍛えられません。ラガーマンのように屈強な社員が、ちょっと上司にきついことを言われたら会社に行けなくなったという話もあります。心を鍛えるためには、体系的な学びが必要と考えました」
そもそも1年間の留学を必須にしたのも、生徒たちにメンタルタフネスを持ってもらうことが目的だった。
「私たちは社会で役立つグローバル力を“異なる者と共生する力”と捉えています。文化や価値観の違いを感じながらも、その中で人間関係を築いていくには、強い心が不可欠。自分の人生を追求するための精神的土台を培ってほしい、という思いもありました」(土屋氏)