CASE 1 野村證券 社内の実態に合ったテーマ選定で受講満足度9割を実現 明快な3つのメソッドが効く アンガーマネジメント研修
野村證券では、2015年より人権啓発活動の一環として、全社員対象のアンガーマネジメント研修を行う。
怒りのメカニズムに沿った具体的なメソッドにより、パワハラの予防だけでなく、組織活性化の効果も期待できる。
研修担当者に、実施上のポイントを聞いた。
■背景 感情に任せた怒りを抑えたい
証券大手の野村證券では、2015 年より「アンガーマネジメント研修」を導入した。
アンガーマネジメントとは、1970 年代に米国で広まった「怒りと上手につき合う」「怒りの感情を上手にコントロールする」ための感情理解教育である。日本では2011年に日本アンガーマネジメント協会が発足し、近年各方面より注目が集まる(詳細は22ページ参照)。
アンガーマネジメント研修の受講対象者は、本社・関連会社と全国に159ある支店の社員であり、ほぼ全員が該当する。研修を担当するのは、人権啓発室だ。
「人権啓発室は社員に向けて、障害者やLGBT(性的少数者)に対する理解浸透など、全ての人たちの人権を尊重し、相互理解を深めるための活動を行っています。ハラスメント(嫌がらせ)に対する正しい認識を促すことも、その1つです」(人権啓発室長 前田暁史氏、以下同)
ハラスメントにはさまざまな種類があるが、“怒り”と関わりが深いのは職務上の地位や人間関係の優位性を利用した「パワーハラスメント(パワハラ)」だろう。上司が部下を人前で叱責したり、理不尽なことで怒鳴ったり、あるいは過去の失敗を持ち出して繰り返し部下の人格を否定するなど、沸き立つ感情に任せて反射的に怒りをぶつけるようなことはないだろうか。
パワハラは、時に相手の精神に大きなダメージを与え、深刻な場合は訴訟に発展することも考えられる。そのため、今では企業向けにハラスメント保険が商品化されるほどだ。また裁判沙汰となれば、その企業に対するイメージも損なわれる。
「以前からパワハラにフォーカスした研修を行ってはいました。しかし、『むやみに怒ってはいけない』と言ったり、具体例を挙げて『これもパワハラだ』などと説明しても、受講者は他人事として受け止めてしまう。この方法では効果が薄いのでは、と感じ始めていました」
どのような形でアプローチすればよいのか。方向性を模索していた頃、前田氏は新聞で“アンガーマネジメント”に関する記事を読んだ。
「アンガーマネジメントは、“怒り”に対する具体的なメソッドが確立されています。例えば、『怒りを感じたら6秒ゆっくり数えてみる』などです。怒りの感情の客観的なコントロール法であれば、社員たちに受け入れられるだろうと思ったのです」
さっそく前田氏は、アンガーマネジメントのメソッドを指導できるようになるため、日本アンガーマネジメント協会が認定するファシリテーターの資格を取得する。また、協会会長の安藤俊介氏に、社内研修にアンガーマネジメントを取り入れたい旨を相談し、同社オリジナルの研修がつくられることとなった。
■研修内容 3つのメソッドを動画で確認
研修は、60 分程度で構成されている。数あるアンガーマネジメントのメソッドの中から3つを取り上げ、それぞれについて「怒りをコントロールできていない悪い例」→「アンガーマネジメントの解説」→「メソッドを使って怒りをコントロールした例」→「グループワーク」の順で展開される。