OPINION3 意志力 自己統制と粘り強さを支える 2つの力のメカニズム
困難や壁を乗り越える際に、発揮されるという意志力。
衝動的な欲求に打ち克つ“セルフコントロール”の他に、ひとつの物事に粘り強く取り組む、「やり抜く力」の存在が注目されている。
2つの力の強化につながるメソッドとは。
意志力について研究を進める東洋大学の尾崎由佳准教授に話を聞いた。
意志力とは何か
人は何かにチャレンジすると、大抵は苦しい場面や葛藤する場面に遭遇するものだ。それを乗り越える時に発揮されるのが意志力(Willpower)と呼ばれるものである。この意志力とは、いったい何だろう。
■自己制御の正体、制御資源
意志力は1990 年頃より注目されている。近年では米国の心理学者、ロイ・バウマイスターらの著書『WILLPOWER意志力の科学』がベストセラーとなっている。
この本では、目の前にある誘惑などから生じる衝動的な欲望を抑え、より高次な、あるいは社会的価値のある反応に変える力、つまりセルフコントロールを“意志力”と定義して、さまざまな性質を紹介している。
バウマイスターの研究チームは、セルフコントロールについて研究を進めるうちに、“制御資源”の存在を突き止めた。制御資源は衝動を抑える際に用いられる、セルフコントロールの源ともいえるものだ。そして制御資源には、次の性質があることが分かった。
・制御資源は、大脳の前頭葉が司る
・衝動の違いを問わず、衝動抑制に用いる制御資源は同じである
・制御資源には限りがある
どのような形であれ、我慢を繰り返すと、やがて制御資源は枯渇してセルフコントロールが効かなくなる。ダイエットで甘いものを控えていても、日中ストレスに晒されると、夜中にドカ食いしてしまうケースなどは、制御資源を使い果たした「自我枯渇」の状態だといえる。
またセルフコントロールは、仕事のパフォーマンスにも大きく影響する。いくら残業しても、自我枯渇の状態であれば集中力を保てず、期待する成果は望めない。
■やり抜く力“GRIT”に注目
そして近年、セルフコントロールの他に、意志力につながる新たな力が注目されている。それは、「粘り強く情熱を持って、最後までやり抜く力」であり、「GRIT(グリット)」と呼ばれている。