OPINION2 レジリエンス ストレスにしなやかに適応し、 立ち直る力を身につける
仕事で失敗したり、職場の人間関係がうまくいかなかったり、将来に不安を感じたり……。
人は大きなストレスを感じると、落ち込んだり、気持ちがいら立ってしまうことがある。
そんな時、自分の心理状態を速やかに元に戻す力が「レジリエンス」(精神的回復力)だ。
近年、注目の高まるレジリエンスの基本と企業における取り組み方について、レジリエンス・トレーニングの専門家である久世浩司氏に話を聞いた。
レジリエンスが求められる理由
「レジリエンス」とは、回復力や復元力という意味で使われる言葉で、心理学や人材育成の分野では「逆境や困難、強いストレスに適応する精神力や心理的なプロセス」のことを指す。ストレスに対して真っ向から立ち向かうのではなく、しなやかに適応し、ストレスを受けた直後には多少落ち込んでも心の傷になるようなダメージは負わず、速やかに回復する能力のことだ。
なぜ、「立ち向かう」のではなく「しなやかに適応する」必要があるのか。それは、現代の環境変化のスピードが昔と比べて格段に速くなっているからだ。形を変えて次々と現れるストレスやプレッシャーに対抗して打ち勝とうとするのではなく、失敗しても立ち直り、うまく適応していくことが求められている。
レジリエンスが注目される背景には、職場のストレスに関する問題意識の高まりもある。2015 年12 月からは、従業員50 人以上の事業場でストレスチェックが義務化された。従業員のストレス度が明らかになると、「ストレスに自律的に対処していく力を持たせたい」と考えるようになるのは、自然な流れだ。
レジリエンスはメンタル不調の予防だけでなく、リーダー育成やグローバル人材育成にも効果がある。組織のリーダーやグローバル人材は、日々、さまざまなストレスにさらされる。また、ストレスに対処するだけではなく、ストレスの高い状況に積極的に挑んでいくことも求められる。逆境にしなやかに適応することで自らを高め、成長し続けることのできる人材の育成は、企業にとって喫緊の課題なのだ。
レジリエンスの3つの力
40 年以上にわたる研究により、レジリエンスの高い人材には、「回復力」「弾力性」「適応力」という3つの特徴が見られることが分かっている。
まず「回復力」は、失敗したりストレスを受けたりした時、直後に落ち込んでも、すぐに立ち直る力だ。「嫌なことも、一晩寝たら忘れる」という人は、回復力が高い。ネガティブな感情を引きずらないので、人に対してイライラしたり怒りの感情を持ったりしても、速やかに気持ちの切り替えができる。
「弾力性」は、人から嫌なことをされたり、傷つくことを言われたとしても、心の傷になるほどのショックを受けることなく、やんわりと跳ね返す性質。「叱られたことがトラウマになり、立ち直れない」というところまで落ち込むことがなく、自分のやるべきことを進めていくことができる。
また「適応力」は、環境や人間関係の変化などに対して、1つの考え方にとらわれず、AがダメならBがあると別の解決策を見つけて見通しを立てる力だ。これがあれば、例えば「この人の部下につくのは嫌だな」と思っても、「将来、自分がリーダーになるうえで貴重な機会」「反面教師にできる」などと、物事を柔軟に捉えることができる。
レジリエンスは鍛えられる
ここで大事なのは、こうした力は、誰にでも備わっているということだ。ただ、ストレスフルな状況や環境変化によって、その力は弱まってしまう。また、物事の捉え方がゆがんでいたり、ネガティブな感情を断ち切る習慣を身につけていないため、レジリエンスを十分に発揮できていない人もいる。しかし、レジリエンスはトレーニングによって鍛えたり存分に発揮したりすることができるようになる。