OPINION1 アンガーマネジメント 衝動・思考・行動を制御し 思いとリクエストを伝える
「怒りの仕組みを理解し、ポジティブに変換できる」と企業やアスリートが注目する、米国発の感情コントロール・プログラム、アンガーマネジメント。
この考え方を日本に導入した安藤俊介氏は「怒ること自体が問題なのではない」と言う。
上手に怒りと向き合いながら、相手に自分の思いを伝えるコツとは。
人間関係は怒り方次第
怒っている人は好き勝手に感情をぶつけがちだが、怒られたほうのダメージは小さくない。
当協会が行った調査(「怒りの感情が業務に及ぼす影響」に関する調査 2016 年)によれば、怒る上司と怒られる部下とでは、意識が全く違うことが分かった。「これはパワハラである」と感じる割合は、怒る上司では16.7%にとどまるが、怒られる部下では53.8%。単純に言えば3倍以上の意識の違いがある。
怒った後、怒られた後の状況についても興味深い結果がある。62.5%の上司は怒りの感情を数分で切り替えられのに対し、部下は40.6%が「モチベーションが低下した」、25.7%が「相手を避けるようになった」、23.2%が「精神的に不安定になった」と答えたのである。また、1年以上、怒られたことを根に持っている部下は5人に1人という割合だった。怒りを爆発させると人間関係を壊してしまう可能性があるのだ。
ただし、怒りは必ずしも抑えなければいけないわけではない。感情にはそれぞれ役割がある。うれしい気持ちを隠す必要がないように、怒りという感情も、適切に表現することが大切だ。
怒りは「防衛感情」ともいわれる。動物が怒るのは、主に目の前に敵が現れた時。自分や子どもの命を守るため、相手に襲い掛かるか逃げるか、選択を迫られた際に湧き起こる。
まず、危機に遭遇すると、「怒りホルモン」の別名があるノルアドレナリンが放出される。血圧が上昇し、筋肉も緊張する。前方に突進して襲い掛かることも、後方に跳んで逃げることもできる体勢になるのだ。リラックスしていたらとっさに反応できない。
つまり、怒りそのものが悪いのではない。大切なのは、怒りをコントロールすることだ。
怒りと向き合い始めた社会
アンガーマネジメントとは、怒る必要があれば上手に怒り、そうでない場合は怒らずに済ませる技術だ。1970 年代頃の米国で生まれた考え方だが、特に発案者がいるわけではない。家庭内暴力(DV)の加害者や被害者、軽犯罪者向けのプログラムが一般化し、企業研修や青少年教育、夫婦カウンセリング、アスリートのメンタル強化に使われるようになった。
注目のきっかけは、70年代後半~80年代初頭に相次いだドライバーの発砲事件だ。他の車の割り込みや追い越しに腹を立てた運転手が過激な報復に出る「ロードレージ」が社会問題になり、怒りの対処法に関心が集まった。
今日、アンガーマネジメントが注目されている背景としては、常に生産性が追求され、人々が忙しさのあまり余裕を失っていること、テクノロジーの発達により、少々の不便さ、不快さにも我慢できなくなっていることなどが挙げられる。グローバル化と共に、価値観や習慣の異なる人とのコミュニケーションが増えたこともある。
特に日本の場合は、この十数年間、「褒める育成」に傾倒し過ぎた反動が起きているとも言える。ゆとり教育が行われた学校と同様、企業もとかく「褒めて伸ばそう」と努めてきた。褒めることばかりに力を入れ過ぎ、ある時ふと気づくと怒り方を忘れていた、という管理職は多いのではないか。