CASE 3 Z会 「企業人であり、教育者であれ」 8つの職種のジョブローテーションで、 理念を体現するゼネラリストを育成
難関大学をめざす中高生を中心に人気のZ会では入社後、3~5年ごとにジョブローテーションを行う。
そのため、新卒採用は職種別ではなく総合職のみで行い企業理念に基づいた「ゼネラリスト」の育成に力を入れている。
柔軟性・共感力・コミュニケーション力を持ったのびしろのある人材育成の取り組みを聞いた。
● 背景 教育者はゼネラリストであれ
入社後のジョブローテーションを社員の育成のために欠かせない仕組みだと位置づけるZ会。教材開発、学習コンサル、教室教務、広告宣伝、営業、顧客サービス、スタッフ、新規事業開発という8つの職種を行き来させ、さまざまな業務を経験させている。その戦略的な異動の背景には、社員に対する社長からの「企業人であり、教育者であれ」という強いメッセージがある。
「Z会の場合、事業ドメインを教育に限定しているため、企業人の前に教育者であることを特に重視しています。その教育者が『ゼネラリスト』になることで、教育者であることがより活きると考えています。ゼネラリストになるには、さまざまな経験を通じて、企業人としてのスキルを身につけていく必要があります。そこで、できるだけ多くの経験を積めるよう、ジョブローテーションを行っているのです」(総務人事部人材開発課課長 菅亮一氏)
● 求める人材像 理念を体現する人材を育成
さらに、創業以来続く同社の経営理念を体現することができる人材の育成とジョブローテーションは、密接に関わっているという(図1)。ローテーションを通じて育てていきたいのは、どのような人材なのか。
① 柔軟で視野が広い人材
教育業界にもIT化の波が押し寄せ、変化に対応できる多様な価値観を備えた社員が求められている。だが、長い間同じ部署に所属していると、どうしてもその部署の思考に染まりやすくなってしまう。
「異動することで、自分がこれまでしていた仕事と他の仕事のつながりも見え、より俯瞰した視点で仕事に向き合うことができます。また、疑問に思う点は何でも口にしやすい文化がありますから、他部署から異動した社員が疑問に思ったことを伝えることで、互いにいいところ、違うところを取り入れることができます。それによってさらに視野を広げることができますし、組織活性化にもつながります」(経営戦略部経営企画課課長 渋谷昭氏)
菅氏は、異動において自身で成長を実感した経験があるという。
「最初に配属された通信教育の教材開発の部署では、組織が大きく全体が見えていなかった面がありました。教材作りの現場では、『よい教材を作りたい』という想いが強かったので、例えばコスト面などを意識する視点が欠けていました。ところがその後、書籍編集の仕事に移った時に、1冊の本をゼロからじっくり作り上げることを通して、時間やコスト管理の意識が芽生えました。それは今の総務人事部の仕事にもすごく活かされていますね」