CASE 1 DeNA 適材適所でイノベーションを生み出す 迅速・的確な異動を実現する ビジネスパートナー
モバイルインターネットサービス大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は、著しく変化する市場に対応するべく、事業部の垣根を越えた大胆な人事異動を常時行う。
その実践をサポートするのが、「ビジネスパートナーグループ」の存在だ。
頻度の高いジョブローテーションの狙いと、ビジネスパートナーの役割について話を聞いた。
● 特徴 事業戦略を実現する異動
ゲームやコミックなどのスマートフォンアプリの開発や、さまざまな分野のキュレーションサイト運営などを手がけるDeNA。ITのみにとどまらず、プロ野球球団運営や、遺伝子解析ビジネス、自動車産業への参入など、急速に事業領域を拡大し続けている。
積極的に新事業を立ち上げる同社では、ビジネスの状況に応じて常時、異動が行われ、人にまつわる環境は流動的である。社員の大半は異動の経験があり、プロジェクト単位で見れば、3カ月で別のチームへ移ることも珍しくない。
ヒューマンリソース本部長の對馬(つしま)誠英氏は、同社の異動の特徴を次のように語る。
「目的のはっきりしない定期人事異動などは行いません。会社にとって何の意味があるかを常に考え、事業戦略に合わせたベストな配置を心掛けています。全社目線での適材適所の実現が第一の目的なのです」(對馬氏、以下同)
その言葉通り、同社の異動は実に“潔い”。
能力の高い新人がマネジャーに就くこともあれば、その逆に役割を終えたマネジャーがプレーヤーになるケースも珍しくない。同じ社員でも、ある仕事ではリーダーシップを、別の仕事ではデザイナーとしてのセンスを発揮してもらうなど、事業の性質に合わせてベストな人材をマッチさせる。
新たなプロジェクトにエース級の社員が必要ならば、うまく機能しているチームの大黒柱でも、ためらわずに引き抜くという大胆さだ。
事業戦略に焦点を合わせればこその試みだが、異動によって成長意欲を刺激しようというもくろみもある。能力の高い人材は新しいポジションに就いてもらい、どんどんチャレンジさせる。
「IT 業界はもともと人材が流動的で、1つの会社にとどまる人がむしろ少ない、という事情もあります。ですから、社員には『仕事を通し、自分のキャリアを自分で設計してほしい』と常々伝えています。社員もまた、異動をチャンスとして受け入れているようです。1年目の新人が『入社以来、ずっと同じ仕事をしているので、そろそろ新しいことをやらせてください』と訴えるほどです(笑)」
● 背景 新時代のゼネラリストを育成
背景には、何事においてもプロセスを重視し、失敗をも受け入れる同社の姿勢がある。安心して新しい仕事にチャレンジできる風土づくりが異動を成功させる秘訣、と對馬氏は説明する。
また、もともと「マネジャーは役割に過ぎない」という組織文化を持っている。役職はジョブグレード制(ランクに応じて給与・賞与が決まる制度)とは完全に切り離しているため、マネジャーを務めたからといって報酬が変わることはない。