OPINION3 人手不足時代も見据えた仕組みに “肥大化した総合職”に必要なのは 個別の制約に対応したローテーション
日本のローテーション制度は、そもそも管理職候補である総合職が少ない時代に導入されたものだった。
学習院大学の今野浩一郎氏は、総合職が溢れる現代に、従来型のローテーションをそのまま運用していては、不備が起こって当然だと指摘する。
現代に合うローテーションの仕組みを聞いた。
ローテーションの構造的問題
日本企業では、従業員を対象とした配置と異動が一般的に行われている。基本的な管理の仕組みは、図1の通り。
中でも注目したいのは、「配置・異動の目的」についてである。これは、大きく2つある。1つは業務上の必要性に対応した機動的な人材配置。もう1つは、多様な仕事を経験させることによる社員の能力開発だ。特に、将来の幹部を育てるために、ゼネラリスト育成を大きな狙いとして実施されてきたのが、いわゆるローテーション、つまり全社一斉の定期異動である。
この仕組みは、戦後の高度成長期に確立されてきたものといえる。当時の人事管理においては、ローテーションの対象は、大学卒、いわゆる総合職の男性だった。例えば1960年の大学進学率は全体で8.2%、男性に限っても13.7%(旧文部省「文部統計要覧」より)に過ぎない。リーディング産業であった製造業を例にとれば、膨大な数の中卒・高卒の現場労働者の中に、少数の大卒・キャリア組の男性が入ってくるという構図である。事務部門には女性もいたが、こちらは今の一般職に当たる。すなわち、高度成長期の初期の大卒・男・総合職というのは、ごく僅かしかいないエリートだったのである。
ローテーションは、もともとそういう人たちを対象につくられた制度である。しかし、その後、男女含めて大学進学者が増加し、企業は大卒者を大量に採用するようになり、総合職が大幅に増えた。この現代の総合職を私は“肥大化した総合職”と呼んでいるが、この層に対して、日本企業は今でもかつてと同じようなローテーションを実施している。これでは、いろいろ問題が生じるだろう。昨今、伝統的なローテーションに対して、いくつか疑問や不満の声が聞こえてくる背景には、こうした構造的な問題がある。
従業員のメリット・デメリット
従業員側は、この制度をどう捉えているのか。各種の調査結果などを見ると、ローテーションの持つ人材育成機能に関しては、肯定的に捉えているといえるだろう。さまざまな仕事を経験することにより、幅広いスキルや視野、そして人脈が得られる。ただし、否定的な意見もある。
その筆頭が転勤である。配置転換はいいけれども、転勤が伴う異動は問題があるというわけだ。
また、ムダなローテーションが多いという声もある。前述のように、総合職が肥大化してしまったにも関わらず、昔のルールのまま実施しているので、不要な異動も生まれる。それが従業員の不満につながっているのである。