OPINION1 つながりから成長を狙う異動戦略 経験を獲得させ、 人と人、個人と組織を結びつける
複数の部署、複数の仕事を経験することは個人の成長にどんな変化をもたらすのか。
それにより、組織はどんな影響を受けるのか。
また、人と人とのつながりが増えることで生まれるものとは――
最適な異動を実現するための戦略の描き方を聞いた。
メリットとデメリット
まず、ジョブローテーションの意義について考えてみよう。異動の最大のメリットは、さまざまな職務や職場での経験を通じて異なる考え方を結びつけ、一人ひとりが幅広い知識・スキルを習得できる点だ。会社の一員、そしてビジネスパーソンとして広い視野を身につけることは、組織、個人双方の利益につながるはずである。
適材適所の人材配置を実現できることも特色だ。ビジネス環境が変化した時に、従業員の配置を柔軟に変えられる仕組みは、日本企業の強みといえる。
また、ジョブローテーションは、よい意味でひとつの部署に愛着を持たせない制度でもある。同じ部署にいる期間が長過ぎると、次第にその部署中心の思考になり、全体最適よりも部署の利益を優先しがちになる。それを避けるには、所属部署への過剰な愛着が生まれる前に、他部署へ異動させることも一手だろう。
一方、デメリットもある。幅広い知識・スキルを身につけさせようとすると、育成期間が長くなりやすいことだ。中でも問題になるのは経営人材の育成である。特に変化の激しい業界の場合、年長のトップの価値観が時代と合わず、上手く戦略を描けないために機動力を欠く場合がある。その対策として昨今は、将来の経営者候補を早期選抜し、早くからハードルの高いタスクを与えて、異動のサイクルを速める企業が増えている。
他にも、異動を重ね、全体目線を獲得していくかわりに、周囲と同じような思考様式になる人が増える(集団浅慮)というマイナス面もある。新しい発想やイノベーションが生まれるような組織づくり、経験の獲得を心掛けたい。
見落としがちな部署への影響
もう1つ見落としがちな課題がある。それは、部署に与える影響である。
これまでは異動する本人にとっての効果は考慮しても、異動元への配慮についてはあまり論じてこられなかったのではないか。例えば、社内公募制度は、本人のキャリアや自律性を高める施策としては有効だが、一定の人数を超えて従業員が同時に異動してしまえば、部署として成立しなくなる可能性もある。そのような事態を防ぐためには、各部署の異動人数を都度、制限することも必要だろう。もちろん、異動先の部署に与える影響も考慮すべきだ。
人が変わることで部署内の仕事も再編成せねばならなくなる。それがどの程度のインパクトをもたらすかといったことについても、人事は情報を蓄積して知見を持つべきだろう。
つまり、ジョブローテーションは、「異動する本人に何を学んでほしいか」「異動元が失うものは何か」「異動先の部署に何をもたらしてほしいか」という3つの側面から考える必要があるのだ。