巻頭インタビュー 私の人材教育論 公正な評価や粘り強い支援が 懸命に働く力と構想力を育む
宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマ。
その商品開発の方法やスピード、経営手腕は近年、注目を集めている。
具体的に、それを実現する人材開発や評価の仕組みはどうなっているのか。
また、東日本大震災を契機に旗揚げした「人材育成道場」に託した思いとは。
創業社長の大山健太郎氏が、人材教育哲学を語る。
主観ではなく、他者の評価で
─現在そして今後、貴社に必要な人材とは、どのような人でしょうか。
大山
時代が変わっていますから、求める人材像や必要とする能力も変わります。
高度経済成長期までは先進事例があり、それを解釈して効率よくモノを作ったりサービスを提供したりすればいい時代でした。しかしその後、日本も世界のフロントランナーになり、キャッチアップ型では過当競争に陥り、儲からなくなりました。
そんな中、当社は、競争の少ない分野に目を向け、新しい需要を自ら創造していこうという姿勢を貫いてきました。商品開発コンセプトとしても、以前は、暮らしを快適にする「ホームソリューション」を掲げていたのですが、2014年からは、世界に日本ならではの提案を行うという意味の「ジャパンソリューション」に切り替えました。当然ながら人材としても、それを実現できる人が必要になります。ちなみにこの転換の契機となったのは、東日本大震災で世界中から支援を頂き、視野が広がったことでした。
─育成の仕方も変わってきていますか。
大山
内容や細部をブラッシュアップしながらも、長年継続させている教育がほとんどです。
「論文」はその一例です。主任以上のリーダー・マネジャーに課題を与えて書いてもらうもので、テーマは、一昨年は「自部門の成長戦略プラン作成のためのチェック・アクションの具体的実践策」、昨年は「自部門の現状分析・問題解決・会社成長貢献のためのアクションプラン」でした。自部署の問題解決だけではなく、自分や自社が今後やるべきことについて検討して書いてもらいます。論文の内容は毎年2月に行われる研修でプレゼンしてもらい、役員・部門長から構成される人事評価委員会が評価します。
付け焼刃は通用しないので、あまり読書家でない人も本を読み、まとめようとします。こうした機会が事業を考える意識づけになるのです。
─貴社では論文のみならず、360度評価など、さまざまな機会で多数の評価者による評価を重視しています。なぜでしょうか。
大山
そもそも評価とは、他人がするものでしょう。お客様がどう評価するか、あるいは上司や同僚や部下、第三者から見て自分はどう見えるのか。主観ではなく、他人の軸で評価されるべきだと思います。
人事評価にしても、当社には2つの評価の柱があります。1つは「360度評価」です。上司、同僚、部下など複数名から無記名で受けるアセスメントで、私も受けています。評価者が他部署の人の場合もあります。
もう1つは、年に2回、部署単位で行う「評価会」や、前述の2月の「プレゼン研修」(管理職以上)での評価です。部門や同等級内での順位を出し、その順位と360度評価などを総合的に見て、処遇を決めるのです。
大事なことは、順位をオープンにすること。ただしランキングを公表するのではなく、翌年の研修の際に自分の順位に気づくという配慮をしています。具体的には、プレゼン発表を前年の評価順に行います。第1グループの最初の発表者が前年1位の人です。研修当日に初めて自分の昨年順位が分かります。年初に伝えるのは、「今年は(も)頑張れ」というメッセージです。当社の評価の仕組みは厳しいとよく言われますが、ちゃんと思いやりもあるのです。