人材教育最前線 プロフェッショナル編 熱意が人を動かし、活躍の場を広げる ダイバーシティ推進に向けた挑戦
企業における女性活躍推進が叫ばれるが、“男性中心”というイメージの強い建設業界も、例外ではない。建設業各社でつくる日本建設業連合会(日建連)でも「けんせつ小町」と題し、業界ぐるみで女性の活躍をサポートする動きが見られる。業界大手の戸田建設でも、2014年9月にダイバーシティ推進室を発足。初代室長の越智貴枝氏は「女性ならではの視点」を活かした、多様性推進に向けた組織改革を期待されている。同社の取り組みと、越智氏の仕事に対する思いに迫った。
キャリアに迷う一般職時代
建設業界における女性従業員の割合は13%※1という数値が示すように、この業界は男性中心の社会といえよう。だが、戸田建設人事部ダイバーシティ推進室室長の越智貴枝氏は、女性ならではの働きづらさを感じたことはなかったと話す。
「皆さん、穏やかで紳士的な方ばかりで、むしろとても良くしていただいた記憶しかありませんね」
実家は建設関連業を営み、幼い頃から遊び場にクレーン車があるのが当たり前だった。建設会社への就職に抵抗はなく、「建設を通じて社会福祉の増進に貢献する」という企業理念に惹かれて一般職で入社した。最初の配属先である総務部の広報室で、越智氏は社内報の制作に携わる。
「取材では、相手の発言や行動の背景をひもといていかない限り、真意を理解することはできません。『人の話を聞く』ことは、社内報を制作していた時代にだいぶ鍛えられました」
ダイバーシティを進めるには、まずは多様な意見に耳を傾けることが第一だ。当時の経験は、今の越智氏にとって糧となっているという。
その後、20年近く社内報の編集ひとすじで過ごすのだが、ある時、ふと迷いが訪れる。
「広い視野で会社を捉え、いろいろな人と出会える社内報の仕事は確かに魅力的でした。しかし一方で、変わらない環境に閉塞感を覚えていたのです」
気づけば、社内報の編集“しか”仕事を知らない。他に活躍できる場所はあるのか――。会社に愛着があるだけに転職は頭になかったが、どのようにキャリアを築けば良いのか分からず、悶々とした日々が続いた。
ところがある日、越智氏にまたとないチャンスが巡ってくる。それが、一般職から総合職へのコース変更試験の再開だった。
「コース変更制度は、入社後間もなく中止になって以来の再開でした。本当にピッタリのタイミングで、『救われた』と思いましたね」
自分にもできる仕事はないか、キャリアを広げられる環境を求めて、面接の席で異動したい旨を伝え、望みをかなえた。人事部への異動は思いもよらなかったが、キャリアを築くチャンスと捉えた。
熱意が人を動かす
人事部での最初の担当は、採用や研修の企画だった。
「社内広報も人事も、人にスポットを当てる仕事という点では同じだと思います。違う職種ではありますが、仕事内容について特にギャップは感じませんでしたね」
しかし、人事部に来て社内の人材の層の厚さやポテンシャルの高さに気づき、とても驚いたという。
「社内報にはそれぞれの部署や現場のトップランナーなど、表に出て活躍している人が登場していました。人事部に移って、表面からは見えないもっと深いところにも優れた人たちがたくさんいて、彼らが会社を支えていることを痛感しました。社員一人ひとりの能力を引き出し、そこに光を当てること、それが人事の仕事の醍醐味ではないでしょうか」