CASE 1 小泉産業グループ 道学(人間学)+実学 土台となる主体性と価値観を 醸成し、スキルを乗せる
1716 年、創業者の小泉太兵衛氏が近江産の麻布の行商を始めたことから興り、今年で300周年を迎える小泉産業グループ。
現在では照明事業・家具事業・住宅設備販売事業・物流事業など、それぞれ専門会社に分社して事業を行っている。
コミュニケーション能力に関する教育では、スキルに加え、「人間力」ともいうべき素養を醸成する講座をセットで行っている。
●企業概要 「三方よし」を受け継ぎ300年
今年で創業300周年という老舗の小泉産業グループは、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の精神を、脈々と受け継いできた。
「三方よし」とは、近江商人が守り続けた考え方だ。自ら(売り手)の利益のみを追求するのではなく、相手(買い手)に役立つこと、社会(世間)に貢献することに力を注げば、結果的に信用が得られ自らの商売に返ってくる、という意味を持つ。
「当社の人財育成は、『三方よし』がベースです。その実現に重要となることを教育に盛り込んでいます」と語るのは、人事室室長の甲斐和弘氏。同社の社是「人格の育成向上」も、「三方よし」を叶えるために不可欠なものと考えられている。
●「主張」とは何か スキルより「土台づくり」から
そうした思想を大切にする同社で、「主張する技術」はどのように捉えられ、教えられているのか。
「『主張』というと、プレゼンなどのスキルを思い浮かべがちですが、私たちはそれ以前に『主体性』が大切だと考えています。主体的であれば懸命に自分の意見を伝えようともしますし、説明の仕方も自ら工夫するもの。何事にも当事者意識を持って取り組む姿勢を育むことが先決です」(甲斐氏、以下同)
「コミュニケーション力」に関しても、「自分の判断軸を持ち、相手を慮りながら連携を取るといった、広い意味でのコミュニケーション力は、どんなビジネス現場にも欠かせません」と甲斐氏。したがって、コミュニケーション力だけを取り出して学ばせるのではなく、「教育のベースとしてずっと流れているべき要素」と捉えているという。
■教育も人間力+スキル
主体性や、「人格の育成向上」に寄与する同社の教育は、スキルにあたる「実学」に「道学」をセットにして、二本柱としたもの。「道学」とは、人としての原理原則、物事に対する考え方について、深く考えるきっかけを与える学びだ。ハウツーではなく、歴史上の偉人や学者、経営者などの先達が残した言葉やエピソードを題材に「自分はどう生きるか」を考える。「人間学」と言ってもいいだろう。他者との関係性を築くうえで重要な、人間や物事の本質への理解と、それを通して自身の判断軸・価値観をつくる過程を「ベースとしてずっと流れ」させているのである。
人財育成体系の全体像は「コイズミアカデミー」と名づけられている(図1)。本稿では、特に新入社員研修と3年目研修に的を絞り、「主張する力」に関連する「コミュニケーション力向上」についての取り組みを紹介する。
●新入社員研修 近年の若手の傾向から改定
新入社員研修は毎年、3月末に5泊6日で、滋賀県比叡山にある天台真盛宗総本山の西教寺で行う。1965年から実施されているこの「西教寺研修」にも、社是や近江商人の魂を柱とした教育理念が色濃く反映されている。