人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第45回 『そして父になる』川西玲子氏 時事・映画評論家
「そして父になる」
2013年 日本 監督:是枝裕和
日本を代表する映画監督の是枝裕和が、まだ独身だった福山雅治を父親役に据え、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した作品である。尾野真千子やリリー・フランキー、真木よう子などの個性派を集めて、日常を細やかに描く日本映画の良き遺伝子を開花させた佳作だ。
福山演じる野々宮良多(りょうた)の子ども・慶多(けいた)が小学校に入学するという段になって、赤ちゃんの時に病院で別の子どもと取り違えられていたことが発覚するところから、物語は始まる。
良多は、大企業のやり手ビジネスマン。スカイツリーが見える瀟洒(しょうしゃ)なマンションに、専業主婦と一人息子の3人で暮らしている。病院で取り違えられた本当の子どもは、妻が出産した実家近くの電気店の三人兄妹の長男・琉晴(りゅうせい)として育てられていた。家が仕事場なので、父親はいつも子どもと一緒にいて、妻は弁当店でパートをしている。近くには川もあり、琉晴は祖父も一緒の三世代家族で賑やかに暮らしていた。
一人息子の慶多と血がつながっていないことを知った良多は、「やはり、そういうことか」とぽつりともらす。この一言に、自身が経験してきた親子の葛藤が秘められていたのだ。
一方、すぐに賠償金を口にする先方夫婦の、あまり上品とは言えない言動や家庭環境に、良多は違和感を否めない。2つの家庭は階層も文化も異なっていた。