グローバル調査レポート 第13回 ビジネスパートナー人事に必要な 9つのコンピテンシーと4つの活動
デイビッド・ウルリッチ教授らによって1987年からグローバルに行われてきた「HRコンピテンシー調査」。
今回初となる日本企業の調査参画により明らかとなった興味深い結果を、調査に関わった日本能率協会と守島基博氏(一橋大学大学院教授)が解説・分析。
日本企業の人事・人材開発部門に、調査の活用法も提案する。
1 潮流は事業に貢献する人事
米国ミシガン大学、RBLグループに所属するデイビッド・ウルリッチ教授らが、1987年からグローバルベースで展開してきた「HRコンピテンシー調査」に、日本企業が今回(2016 年/第7回)、初めて参加しました。
本調査は、人事部員・部門の活動実態についてグローバル統一のアンケート調査を行い、今日のビジネス環境において人事が事業に貢献するために求められるコンピテンシーを明らかにするものです。5年に一度、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、中東、オセアニア、北米地域で実施されており、その時代、時代における人事の役割を示唆してきました。今回の調査の参加状況と調査項目は上記(調査概要)の通りです。
前回調査と比較すると、圧倒的に調査対象が広がっており、ビジネスに貢献する人事の役割は世界共通の関心ごとであることがうかがえます。特に、アジア地域の回答数は全体の25%を占めるほどに増えており、同地域の経済・事業成長が人事の役割認識に変化を与えていることが推測されます。
2 9つのコンピテンシー抽出
本調査方法の特徴として、人事部門の評価対象者本人の自己評価だけでなく、人事部門内の上司・部下及び人事部門外の同僚による360度評価を行い、評価の客観性を担保していることが挙げられます。また、調査項目も事業・組織全体に関するものになっており、その高い包括性も、他の人事コンピテンシー調査にはみられません。
本調査では、アンケート結果を基に、その時々の経営環境の中で、事業に影響を及ぼしている人事部員のコンピテンシーを抽出しています。図1は、今回の調査から導き出されたコンピテンシーモデルです。
左側の「Strategic Positioner」(組織内外の事情を見極め、その結果を人事実務の洞察に結びつける)が、人事の活動の方向性を決めるコンピテンシーです。そして活動を支える基礎部分は、下部の「ComplianceManager」(自ら法令を順守し、従業員の法令に順守した行動も促す)、「AnalyticsDesigner and Interpreter」(ビジネス・人事データを管理・処理し、意思決定のためにそれを解釈・活用する)、「Technologyand Media Integrator」(好業績な組織づくりを後押しするためテクノロジーやソーシャルメディアを活用する)にあたります。
戦略的に定められた活動を実現するための手段としては、図1上部3つのコンピテンシー、「Culture andChange Champion」(ビジネス需要に合わせて、組織の柔軟性を調整したり、組織内のフォーマルな関係性を構築する)、「HumanCapital Curator」(現在・未来のビジネスで求められる適切な人財を特定、育成する)、「TotalRewards Steward」(従業員に対して金銭的・非金銭的報酬を提供したり、社会に対して有形・無形の価値を創出する)が掲げられています。
また、活動の実現のためには手段のみならず、有言実行によって社内外の信頼や尊敬を得て、組織を動かさねばならないことから、右側の「CredibleActivist」(信頼できる活動家)もキーファクターとなっています。
今回のコンピテンシーモデルの最大の特徴は中央に「Paradox Navigator」(職場で起こるさまざまな矛盾にうまく対処して、本質的には相反するアイデアや結果を最大限に活かす)を据えていることです。いかなる人事の業務にあたっても、例えば個人と組織、短期と中長期、といった相矛盾する要素のバランスをうまく取り、組織パフォーマンスを上げていく能力が、今の人事部員に求められているといえます。
3 情報技術活用に弱い日本人事
9つのコンピテンシーの評価は5段階で各国・地域別に集計されています。図2は、日本とそれ以外の地域をグラフ上で比較したものですが、Technologyand Media Integratorがグローバル水準から特に下回っていることが見て取れます。
Technology and Media Integratorとは、人々の協働・働きやすさ・生産性を促進するためにソーシャルメディアやテレワークを活用したり、人事業務の効率化のために人事情報システムやコミュニケーションツール等のテクノロジーをうまく用いることを指しています。
このコンピテンシーは後述の「人事部門の活動」の中で述べられるInformationManagementとも深い連動性があります。人や組織に関する情報やその分析、そこから得られる洞察を用いて経営・事業に貢献する人事部門の活動が増えれば、その情報媒体ツールとしてテクノロジーの必要性も高まるものと考えられます。
本調査ではコンピテンシー評価を自己評価と他者評価に分解した分析も行っています。日本の結果では、多くの場合、人事部員の仕事ぶりは同僚や上司、さらに現場からも評価されているものの、自己評価は他者評価より低いことが分かりました。
この分析結果から、人事部員の自信の欠如が垣間見られる一方、「まだまだやるべき仕事はたくさんある」という高い意欲の反映とも解釈できます。いずれの場合にも、行動を伴い成果に結びつけることが、自己評価を高める道筋であると考えます。
そこで次に、各コンピテンシーと人事部員のパフォーマンスの有効性との相関から、Credible Activistの重要性に目を向けてみます。