第37回(後編) 育成の現場へ行き、言葉の力で背中を押す “勝たせるコーチ”より “成長させるコーチ”を増やせ! 上野山 信行氏 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
前回(第36回)に続き、お届けするスペシャル企画。
ガンバ大阪でコーチ育成に携わる上野山信行氏は、世界で活躍する多くのサッカー選手をユース時代から育てたサッカー指導者だ。上野山氏の長年来の知己、ヤフーの本間浩輔氏は、自ら育成の現場に赴き、すぐそばでコーチを指導する彼の手法に注目する。
大切な資質 “素直さ”
中原 淳氏(以下、中原)
上野山さんは、現在、ジュニアからユースまで一貫指導で選手育成を行う「ガンバ大阪アカデミー」でコーチを指導、育成するお仕事をなさっています。そこで、コーチの指導についての話をお聞きしたいと思います。現在、ガンバ大阪アカデミーのコーチは何名いますか?
上野山 信行氏(以下、上野山)
27名です。ガンバ大阪には、中高生の選手育成を行うユース、ジュニアユースチームがあるだけでなく、一般の子どもたち向けのスクールを開いており、そこに約1800名の子どもたちがいます。ですから、たくさんのコーチが必要なのです。彼らの多くは、20代後半の元プレーヤーです。
本間浩輔氏(以下、本間)
コーチには公認資格がありますよね。
上野山
日本サッカー協会(JFA)では、同協会が主催する指導者養成講習会の修了者に向け、子どもたちを指導するD 級から、プロチームで指導できるS級までの公認ライセンスを設けています。といっても、「資格はあるけれど、ほぼ自己流で教えている」というコーチがほとんどです。
中原
自己流とは、どういうことですか?
上野山
ガンバ大阪では、「子どもたち自身が独創力を駆使して人間力とサッカーの技術を日々学び、成長する」というコンセプトを全コーチが共有した上で、コーチを指導しています。しかし、一般的には実際の教え方や指導内容については、ほとんどがコーチに任せており、各自が自分なりの指導方法をとっています。
本間
ビジネスの世界でも同じことが起きています。会社はマネジャーに対して、部下の育成方法を手取り足取り教えたりはしません。「プレーヤーとして良かったから、きっとマネジャーもできるだろう」という前提の基に、きちんとやり方を教えないのです。
中原
確かに優秀なプレーヤーが優秀なマネジャーになるとは限らないものです。選手として優れていた人でも、コーチにしてはいけないような人はいますか?
上野山
いますね。人の話を聞かない人と、選手というプライドを捨てられない人です。コーチの資質として一番大切なのは、人の話を聞ける“素直さ”があることですね。
勝利は人を成長させるか
中原
話を素直に聞けないコーチというのはどんなタイプですか?