OPINION1 必要なのは覚悟とプロ意識 グローバル人事制度推進を阻む 日系企業2つの壁
グローバルに対応する人事制度の必要性については、この20年ずっと議論されてきた。
しかし、どれほどの企業が、導入に成功しているといえるだろうか。
早稲田大学政治経済学術院の白木三秀教授は、日系企業のグローバル化が進まない原因は、2つの壁にあるという。その解決策を聞いた。
進まないグローバル人材活用
企業のグローバル化に向けた動きは、何も今始まったことではない。1990 年代からその必要性が語られ、グローバル化の方法については、多くの企業で議論されてきた。だが、実際に国の枠組みを超えた人的資源の活用はどれだけ進んだか。正直なところ、この20 年間、そう大きな変化はないように思う。
特に日系企業が現地法人で外国籍人材の活用を進める場合、立ちはだかる壁としては以下の2点が挙げられる。
1つは外国人社員との「意思疎通の難しさ」だ。ある調査では、大手企業の約6割が「外国人社員がトップの現地法人では本社とのコミュニケーションが難しい」と答える結果が得られた(2014 年日本在外企業協会調べ)。自社の理念や事業の方向性の理解浸透が進まず、共通言語が持てない、というのである。
そしてもう1つは、「現地で良い人材を雇用できない」という点だ。本来、能力が高い人材ならば、どの国籍であろうと、しかるべきポジションで力を発揮できるはずである。だが、そのような人材を現地で見つけることができない、あるいは採用できたとしても数年で逃げられるというのである。
この2つの問題が生まれる背景をひもといてみよう。
グローバル化を阻む2つの壁
●言葉の問題だけではない
1つめの壁、「意思疎通の問題」については、2つの対照的な事例が参考になる。
1990 年代後半、私は欧米諸国に世界本社を構える、複数の多国籍企業を調査した。世界的電機メーカーのシーメンスや世界有数のファッションブランド、ルイ・ヴィトンを擁するLVMHなどである。アジア各国へ盛んに進出を進める2社に、私は「コミュニケーション面での課題はないのか」と聞いてみた。すると、他の先進的な欧米企業と同様、両社とも“No Problem!!”と答えたのだ。
シーメンスとLVMHは、英語を社内公用語にしたことで共通している。両社の本拠はドイツとフランスであり、英語圏ではない。日本語に比べれば、ドイツ語もフランス語も英語との共通性はあるかもしれないが、母国語以外の言葉を社内共通語とする難しさは相当あったはずだ。しかし、英語の使用を徹底することで、言葉による国境の壁を超えることに成功したのである。