常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第11回 自然は我が師・我が友(後編)
元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成の在り方について提言する本連載。前回に引き続き、動物や植物たちの習性や生き方から、自然の中に潜む「知」を探り出し、経営や人づくりへの活かし方を考えます。
植物の生き方に学ぶ
動物や植物たちが厳しい自然環境下で生き抜いていく姿には、学ぶべきさまざまな“知”が潜んでいます。前回は、サバンナや熱帯雨林の生き物たちが持つ、生態の質や生き抜く力について取り上げました。今回は、より身近なところで、農作物の特性や栽培などから企業経営、人材育成のヒントを探ってみます。まず、いくつか具体的な例を挙げましょう。
厳しい環境でこそ人は育つ
【つるぼけ】キュウリ、スイカ、カボチャなど、蔓つる性の植物は肥料を与え過ぎると、葉や茎ばかりが伸び、肝心の実は大きく生な りません。このような現象を“つるぼけ”と言います。つるぼけを防ぐには、肥料を抑える、時には先端の芽や脇芽を摘み、茎や葉が増え過ぎないようにする。厳しい状態に置いたほうが、生き残ろうとする植物の本能が働き、大きな実をたくさん結びます。【リンゴ】リンゴ栽培といえば、下草を刈り、しっかりと肥料を施し、適時に農薬を散布して育てるのが普通でしょう。ところが、青森のリンゴ農家・木村秋則さんは、下草を刈らず、農薬などに頼らない、自然のままの環境でリンゴを育てる農法を編み出しました。そのような環境にあるリンゴの木々は、他の植物や昆虫と共生しながら生き抜こうという本性に目覚め、却かえって風味豊かな、おいしいリンゴが生るそうです。
この2つの話は、手をかけ過ぎず、自然に任せて作物を育てることの大切さを教えてくれます。人材育成も同様で、居心地のよすぎる環境では逞しい成長ぶりは望めません。程よい厳しさが必要なのです。それには、同質圧力が働かぬよう異質な人材を共存させ、互いに切磋琢磨させることが大切です。
「間を取る」ことの大切さ
【生なり年どしと裏うら年どし】ミカンやリンゴなど果物の栽培では、豊作はいつまでも続きません。たわわに実る年(生り年)と、不作の年(裏年)を交互に繰り返しています。裏年には、果樹は次の生り年に向けて力を蓄えているのです。