CASE 3 三洋化成工業 チャレンジ精神醸成と社内外へ視野を広げる 気づきを与える数々の仕組みで 優秀な研究者を育てる
パフォーマンス・ケミカルスメーカーの三洋化成工業では、「優秀な研究者」のロールモデルを示したり、6年目成果発表会で自身のレベルを意識させたり、経営層や部門を越えた気楽な対話の場を積極的に設けたりすることで、先のキャリアを考えさせ、社内外へ視野を広げさせている。
● 企業概要 技術融合が価値を生む
京都に本社を構える三洋化成工業。組成ではなく機能や性能に重点をおいたパフォーマンス・ケミカルスのメーカーだ。「洗浄機能」「分散機能」「吸水・保水機能」など、製品が提供する「働き」が売りである。代表的なものは界面活性剤や高吸水性樹脂で、身近なところではシャンプーや紙おむつなどに使われる。他にも、自動車、電気電子、繊維など幅広い産業に約3000 種の製品を提供する。
そうした同社の強みは「技術融合」。例えば、ある顧客のニーズから生まれた製品に別部署の技術を融合させ、これを新たなシーズにして異なる分野の顧客のニーズに対応する新製品を開発する。多様な業界と関わりを持つ強みをいかんなく発揮し、付加価値を生み続けるのだ。同社ではそれを「ニーシーズ指向」(ニーズとシーズをさまざまに掛合・融合させる)と呼び、多角的なアプローチに挑み続けている。
ちなみに、R&D人材は全社員の30%で、毎年売上高の5%をR&D活動に充てていることからも、R&Dを重視する思いが伝わる。「R&D人材の育成は、『ニーシーズ指向』の実現がゴール」と語るのは研究部門担当役員の前田浩平氏だ。その考え方と取り組みを聞いた。
● 育成の戦略と課題 果敢に挑戦する人を育てたい
「ニーシーズ指向」を実現するには、自身が担当する分野だけではなく別部署が持つ技術にも精通する必要がある。そのため、同社では頻繁なジョブローテーションを行っている。
ニーシーズ指向に並び、よく謳われるのが、自主性を象徴する「チャレンジ」という言葉だ。「“人”中心の経営」「モットーは“おもしろ、はげしく”」を掲げ、社長の安藤孝夫氏も自ら「宣言しないで成功した人より、宣言して失敗した人を評価する」と檄を飛ばす。
人材育成で感じる課題は何だろうか。「若い人は異動したがらず、チャレンジも躊躇する」と前田氏。
「私見ですが、ここ10 年ほどで、ガツガツやるというよりは、目立たずチームプレーを重視する研究者が増えてきたように思います。『そろそろ異動はどうだい?』と声を掛けても『今の部署が楽しくて』『この仕事にキリがついてから』と、次の展開に足踏みする傾向があります。前に出る態度と思いを育てる仕組みが必要だと感じています」(前田氏、以下同)
自社の強みに合わせた「求めるR&D人材」と現実の課題。そのギャップを解決する施策を進めている(図)。
● 具体策1 研究員も顧客と直接会う
「ニーシーズ指向」は、「顧客と共に生み出すもの」といってもいい。だからこそ、研究者も顧客の元に足を運ぶのが鉄則だという。
「ニーズがありそうなら、営業と一緒に出掛けるのが社内ルールです。しかも会いやすい人ではなく『キーパーソンと2回会う』と決めています。キーパーソンとは、その技術を採用するかジャッジできる人です」