巻頭インタビュー 私の人材教育論 現場こそ育成の原点 「汗の値段」を大切に
快適な住空間を創造する「窓やドア」、美しい都市景観を創造する「ビルのファサード」など、さまざまな建築用プロダクツを提供し続けるYKK AP。
2013年度からスタートした第4次中期経営計画では、「商品力・提案力によるAP事業の持続的成長」を事業方針に掲げる。
「メーカーに徹する」という揺るぎない信念を貫きつつ、方針を実現するための新時代の人材をいかに育成するのか。
堀秀充代表取締役社長が語る。
成熟市場でも量的成長は可能
―2016年は中期経営計画の最後の年度になります。現状はいかがでしょうか。
堀
計画より好調に推移しています。初年度の13年度は消費税の駆け込みなどで、売上利益共に大きく伸びました。続く14 年、15年度は利益は13年度に及ばなかったので、16年度は何とか13年度を抜きたいですね。
さらに言うと、今年度は当社の売上のピークだった1996年も超えたいと考えています。当時は新設住宅着工戸数が160万戸で、現在は90万戸まで減りました。しかし、今は海外事業の規模が大きくなってきましたし、国内でもさまざまな仕掛けをしています。たとえ成熟市場でも、量的な成長が可能だということを示したいです。
―量的に成長する原動力は何でしょうか。
堀
中期経営計画で「商品力と提案力によるAP(建築用工業製品)事業の持続的成長」をテーマに掲げているように、「商品力」と「提案力」がカギになるでしょう。私は、「~力」は人につくものだと考えています。例えば商品力は、企画力、マーケティング力、さらに生産技術など、さまざまな力の結集といえますが、その全てに人が絡んできます。人がいなくては、良い商品や良い提案が生まれず、企業の成長もないと考えています。
―人材の力によって生み出された商品には、例えばどのようなものがありますか。
堀
今、推しているのは「樹脂窓」です。室内の気温差によって脳卒中などを引き起こすヒートショック現象が、世界の中でも日本は特に多いことをご存じですか。海外では室内温度が摂氏18度を切る住宅は不健康とされ、住宅を管轄するのが保健省という国も少なくありません。ところが日本は、いまだに多くの方が断熱性能の低い家にお住まいです。これを改善するのが樹脂窓というわけです。
樹脂窓は省エネにも有効です。新しい省エネ基準は2020年までに義務化され、2030年には新築住宅の過半数がゼロエネルギー住宅になります。また、経済産業省が掲げる住宅指標「トップランナー基準」がサッシにも適用されましたが、アルミだけでは基準をクリアできません。国の方針を考えても、今後、樹脂窓へのシフトが進むことは間違いありません。
肝心の技術ですが、私たちは吉田工業(現YKK)時代からファスナーで樹脂の技術を培ってきました。1982年に寒冷地で樹脂窓を展開し始めましたが、開発には、ファスナー事業部門で樹脂の担当者だった者が携わりました。商品開発力や製造技術はいったんバトンを落とすと復活が難しいものですが、そこは分社後もうまく継続できているんじゃないでしょうか。
―今もYKKグループ内での人事交流や技術の共有は頻繁ですか。
堀
一時期ほどファスニングと建材のコラボは活発でなくなりましたが、今、再びその動きが見え始めています。例えば建設現場の仮囲いのネットにファスニングの技術を使い、簡単に開け閉めできる商品も開発されています。これからさらにいろんな新商品が誕生するはずです。
省エネ資格で提案力向上
―もう1つのカギになる「提案力」については、どのように向上させてきたのでしょうか。
堀
樹脂窓を例にすると、当初はさっぱりでした。長年アルミを扱ってきた当社の営業は樹脂窓に対するアレルギーが強くて、お客様に提案するどころか、「暖かい地域ではオーバースペックだ」と自らネガティブキャンペーンをはっていたくらいですから(笑)。