人材教育最前線 プロフェッショナル編 一歩踏み出すことが 会社の成長につながる
世界160カ国以上に医療機器や医薬品などを供給するテルモ。「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げる同社で、人材育成を担う人材開発室長の前田浩司氏は、人事と営業の現場を通じ、その理念の重みを肌で感じてきた。「私自身、現場での経験があって、今がある。
その場その場で一生懸命やり通せば、必ず新しい道が開ける」。一歩踏み出すきっかけや意欲を発揮できる機会を提供し、働きがいを感じてもらうことで、個人が成長し、会社の成長へとつながる―。そんな循環を築くことが前田氏の目標だ。
認めてもらえる喜び
人間の生命に関わる尊い仕事に就きたいと医療業界に興味を持ち、大学卒業後テルモに入社した前田氏。当時は、「自分の考えを伝え、分かってもらえた、という喜びを直接感じられる営業の仕事がしたかった」と語る。
営業職を希望するきっかけとなったのは、学生時代のアルバイト。販売の仕事をする中で、何に興味がありそうかとお客様を観察し、勧めた商品を気に入って購入してもらえると、素直にうれしかったという。
「私の話に納得して買ってくれたのだと思うと、自分を認めてもらえたような気持ちになり、充実感がありました」
しかし、入社後の実習を終えて配属された支店では、経理や情報システムなどの管理を担当することに。2年後に東京の営業本部へ異動になったが、管理や営業企画を担当し、営業の現場を経験することはなかった。そして入社から10 年後の1995 年に異動したのは人事部。またしても希望は叶わなかったが、悲観的になることはなかったという。
「営業をやりたいという想いは持ち続けていましたが、どの仕事も一生懸命やればやるほど、面白さややりがいがありました」
新しい視点と価値観に触れる
人事部に異動し、前田氏が学んだのが、「経営」という高い視点からの意識と、企業における「人」の大切さだった。社長をはじめ経営幹部と接する機会が増えると、めざす方向性や想い、考えが直に伝ってくるようになった。経営の観点では、お客様だけでなく市場・競合・行政など複雑な要素があり、その中で最善の手を考えなければならない。
「例えば、ある製品の販売終了を検討する際、現場の視点では『お客様が使っている製品がなくなってしまうなんてとんでもない』と思いますが、社会に貢献し続けるという観点から、時には厳しい判断も必要です。そうした視点を持つ難しさは想像以上でした」
また、他部門との関わりも増えたことで、それぞれが大切にしているものも見えてきた。
「中でも、生産や開発部門の社員の品質に対するこだわりの強さには驚かされました。『安全と安心を提供する』という意識が常に根底に流れているのです。業績を伸ばし、『医療を通じて社会に貢献する』という企業理念の実現に向けて頑張るという目標は同じでも、それまで自分が持っていなかったさまざまな価値観やアプローチを知りました」
「同じ会社の中でこんなにも価値観が違う」という発見と、「会社とは、そうしたさまざまな価値観を持った人たちでできている」という気づきを通じて、企業における人の大切さを実感したのだ。
「だからこそ、社員が成長すれば、会社の成長につながる。人材育成の重要性を初めて感じたのもこの時でした」