人材教育最前線 プロフェッショナル編 「うきうき・わくわく・いきいき」 こそ、成果につながる
2010年1月に経営破綻した日本航空。現場の若手社員たちの元気を取り戻そうと2012年から実施されている研修がある。年代別に「うきうき」「わくわく」「いきいき」と名づけられたその研修が、活気を取り戻す原動力となってきた。「『うきうき』会社に来て、仲間と働くことに『わくわく』すれば、『いきいき』と良い仕事ができるはず」と語るのは、研修の生みの親である板谷和代氏。自身も、一般職で入社しながら初の女性海外支店長となるなど、その言葉を体現するようなキャリアを築いてきた。
サービス業に就きたかった
「子どもの頃はスチュワーデスになるのが夢だった」という板谷氏。しかし、耳鼻科系の器官が弱かったことから客室乗務員はあきらめ、空港でカウンター業務などを担うグランドホステスをめざした。そして短大卒業後、念願の「地上女子サービス職」として日本航空(以下JAL)に採用される。
「当然、空港で働けるものと思っていたら、配属されたのは丸の内の東京支店総務部。サービス業に就きたかったので少しショックでした。
ですがある時、総務の仕事は社員へのサービス業だと気づいたんです。それからは、社員の皆さんにいつも笑顔で接するようにしました。するとその後、お客様サービスの部門に異動になり、東京支店でカウンターセールス業務に就くことができました。毎日ムスッと仕事をしていたら、そうはならなかっただろうと思います」
8年後、関連事業本部へ異動となり、再び事務職に就くが、そこで転機が訪れる。当時はまだ珍しかったスパのあるリゾートホテルがハワイに開発され、その東京事務所の担当を任されたのだ。それまで庶務的な業務が多かった板谷氏にとって、プロジェクトメンバーの1人として業務を任されるのは初めてのことである。ホテルの立ち上げから、PRやVIPの予約対応など、さまざまな業務を張り切ってこなした。
そうだ、勉強しよう!
充実した毎日の中、ふと“違和感”を抱くこともあった。
「周囲は男性の管理職が多く、グループ会社の立ち上げや運営などに携わっている方々でしたが、その中で、いくら話をしても理解してもらえないことがあったのです。原因をよく考えたところ、私自身がビジネスで通用する言葉を話していなかったことに気づきました」
それでも仕事が楽しく、全力投球していたが、6年後、ホテルが売却されることになり、国際線の法人セールス部門に異動になる。ホテルの仕事が大好きだった板谷氏は一気に意気消沈し、平日の夜や休日をどう過ごしていいのか分からない状態になったという。
しかしやがて、「ビジネスフィールドで通用する人間になりたい。そうだ勉強しよう!」と思い立ち、30代ギリギリで、ある大学の通信教育課程で「経営情報学」を専攻することに。学ぶことの楽しさに目覚め、続けて大学院にも通うことにした。研究テーマとして、サービス現場での経験から抱いた2つのことを追った。
「当時、後輩たちを見ていていつも感じていたのが、“みんなもっと楽しく仕事をしたらいいのに”ということでした。仕事が楽しければ、お客様にもより良いサービスが提供できるはずです。そのために何をすれば良いかということが、研究テーマの1つでした。
そしてもう1つは、『サービス・フロント組織のデザイン』。本社が決めたことを現場にやらせるのではなく、現場の一人ひとりが判断して、都度お客様に最適なサービスができる組織づくりはどうしたらできるのか、ということでした」
組織行動論のアプローチから、サービスを提供する組織におけるリーダーシップやモチベーション、キャリアなどについて研究を重ねた。そうして学んだ知識やスキルを仕事にも生かしていくうちに、当初は気乗りしなかった法人セールスの仕事も、次第に楽しくなっていった。