常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第6回 人をイノベーションに向かわせるには
「イノベーション」を起こす人や組織を育むには、どのような働きかけが大切なのでしょうか。また、どのような関係を築けば良いのでしょう。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成の在り方について、提言します。
「集団の天才」をめざす
何事も一人でできることには限りがあります。しかし、周囲の協力・協働があればさまざまなことができます。
イノベーションを起こすのならば、なおさらです。もちろん、一人の天才の類まれなるアイデアからイノベーションが生まれることもあります。しかし、一人でなくとも集団として天才であれば良いのです。「集団の天才」なら、個と個の有機的なつながりから、一人では想像もしなかった力が湧いてくる可能性があります。その力が「創発」してイノベーションの源泉となります。私たちは、集団の天才をめざすべきです(連載第3回参照)。
そのために必要なものとは何でしょう。それは、集団におけるコミュニティシップ(共同体精神)です。目標に向かい挑戦する人の姿をそっと見守っている人、困った時に相談に乗ってくれる人、自分の思いに共感する人―集団の中にこんな味方がいれば、人は目標をめざして思い切ってチャレンジできます。
大事なのは個と個がつながり、孤立させない仕組みです。互いの心が通い合った集団は、単なる仲間である「同士」から、志を同じくする「同志」になります。個々人の能力を超えて、コミュニティシップに支えられた燃える集団こそが、イノベーションを生み出す土壌となるのです。
雇用・居場所・夢が原動力
共に仕事する仲間が「同士」から「同志」となるには、経営トップの働きかけが欠かせません。その1つが、誰もが存分に力を発揮できる職場の環境づくりです。
まず、ある程度の長期雇用が保障されていることです。また、安心して仕事に打ち込み、じっくりと物事を考える、自分の居場所が職場にあることです。つまり、落ち着いて働ける環境が大事なのです。