Column “フューチャーセンター”では なぜイノベーションが起こるのか
「フューチャーセンター」をご存じだろうか。
複雑な問題を多様な視点と対話によって、参加者の主体性を引き出し、迅速な実行に結び付け、“創造的に問題解決をするための場”のことである(富士ゼロックスによる定義)。
具体的にはどんな場所で、何が行われるのか。
ハードとソフト両面について取材した。
“ものづくり”から“価値づくり”へ
「フューチャーセンター」(以下FC)とはもともと、北欧で生まれた取り組みで、政府や企業が、社会や地域で必要とされる政策立案や問題解決などについて、さまざまな利害関係者を交えて検討する場として設けられている。欧州では1990年代前半から各地で設立されており、この十数年の間に約40ものFCが誕生したという。
日本でFCをいち早く取り入れ、顧客の問題解決に生かしてきたのが富士ゼロックスだ。なぜ導入したのか。同社中央営業事業部価値創造コンサルティング部の森岡哲郎氏と仙石太郎氏に聞いた。
「既にあらゆる製品がコモディティ化(商品の差別化がしにくい状態)しており、性能・品質・コストのバランス追求には限界が来ています。そうした今、企業にとって必要なことは、ユーザー自身が気づいていないこと(潜在ニーズ)を探して、実現すること。あるいは、これまで解決をあきらめていたような本質的な社会課題に焦点を当てて、本気で取り組むことです。
当社の例を挙げれば、我々が目を向けるべきなのは、競合会社の複合機と比べて時間内に何枚多く、きれいに出力できるかといった“ものづくり”の部分ではなく、顧客や社会が次に何を求めるのかという“価値づくり”の部分です」(森岡氏)
背景には高齢化や労働人口の減少などの要因もある。このまま高齢化が進めば、日本の労働人口は20年後には30%減少する。その未来に先回りするには、顧客期待を超えるようなユニークな解決策を今のうちから検討し、生み出していかなければならない。
社会の変化を感じ取れる環境へ
しかし「顧客期待を超える」製品は、一カ所にじっととどまって研究・開発しているだけでは生まれない。「一歩先」に進むためには、社会で何が期待されているのか、何がトレンドなのかという変化に敏感になる必要がある。
「例えば、今、私たちの日常に最も身近な複写装置とは何かを考えた際、『スマートフォンのカメラとInstagram(1億人以上が利用する画像共有サービス)、あるいはEvernote(クラウド上でのメモ保存サービス)』だといち早く気づき、ユーザーや外部企業と一緒に、アプリケーションを共創するような発想力を培わなければならない」(仙石氏)。そうしたアイデアは社内の特定部門からではなく、多様な知のぶつかり合いから生まれる。そのためには、集合知を形成できる非日常的な空間が重要だ。