OPINION3 使う人の在り方をデザインする クリエイティブに働くために 建築ができること
都会の高層ビルにある洒落たオフィス。
そこにはカラフルな什器やコミュニケーションスペースがある。
だが、最先端のオフィスさえあればイノベーションは生まれるのだろうか?
数々の独創的な建築で知られる手塚貴晴氏は、「建物だけでは変革は起こせない」と断言する。
建物だけでは何も変わらない
ーーオフィスの変更によってイノベーションを起こすことは可能なのでしょうか。
手塚
まず始めに申し上げたいのは、「建物だけでものごとを変えることは出来ない」ということです。オフィスを変えさえすれば人の働き方が変化する、というのは全くの幻想です。私は建築家ですが、単に建物を造ることだけが仕事ではありません。建物を生かすためのプログラムや仕掛けもつくります。
2015年4月にオープンした富山県氷見市のコミュニティセンター「ひみ漁業交流館 魚(ととざ)々座」を例にお話しします。
魚々座には、倉庫のような大空間があり、氷見の漁業関係者や市民の方から寄贈された定置網などの漁具、民具など約2000点が展示されています。ですが、魚々座のコンセプトは観光客に氷見の漁業について知ってもらうと共に、住民同士の交流を促すこと。単なる展示施設では地元の人々の交流は生まれないので、我々は展示物を集める際、ある工夫をしました。リヤカーを引いて民家を一軒一軒訪ねて回り、民具や漁具をお借りしたのです。皆さんには「魚々座をお宅の倉だと思って、必要な時はいつでも取りに来てください」と説明しました。こうすれば、自分の物を取りに来た人たちが立ち話するようになるかもしれません。
このように、単に建物の形を考えるだけでなく、使う人の在り方をデザインすることが肝心だと思います。そうでなければ、どれほど建物や内装を奇抜なものに変えても、変革を起こすことは難しいでしょう。
オフィスや研修施設のデザインを考える際も同様です。席の配置やコミュニケーションスペースの設置について議論する前に、会社はどんな在り方をめざしているのか、働く人はどうあればよいのか、というところから考えるべきです。
大切なのは「どんな会社にしたいのか、どんな人材を育てたいのか」というビジョンを出発点にして考えていくことです。当然、そこにはトップの関与が欠かせません。