OPINION2 スタートは経営戦略の理解から 環境設備や施策が生きる ワークプレイスづくりのストーリー
日本のワークスペースは、欧米型を後追いするような形で進化を遂げてきた。
しかし、形式だけ取り入れても機能しないのは明白だ。
自社に最適なワークスペースをデザインするには。
グローバルレベルでオフィスデザインを手掛けるゲンスラーの天野大地氏に話を聞いた。
就職と就社の違い
オフィスは、もともと工場の事務管理の付帯施設に由来し、その後、発展を遂げてきたものだ。だが、発展の仕方は欧米企業と日本企業とでは異なる。その背景を象徴するのは、「就職」と「就社」の違いである(図1)。
欧米企業は各自の責任範囲が明確な職務主義であり、タスク(職務)を軸にプライベート空間を重視した個室や個人ブースが発展した。
一方、日本では、2列の机が向き合う島型のレイアウトが主流だ。上司は端に座って部下を見渡し、その上の上司が全体を見渡せる配置になっている。“就社”に象徴される帰属意識や一体感を重視する親密な集団主義の風土に根差したものだが、日本人にはある意味で快適な空間だったのだろう。そのため、多くの企業では今日までこの配置が基本とされてきた。
コラボと集中の両立の必要性
だが、2000 年前後から日本の企業文化には変化が生じていた。まず、経済が停滞し、米国企業の進出やM&Aが相次いだ。そうした中で、欧米流の経営手法を参考にする企業が増え、パフォーマンスベースの働き方が浸透していった。
ITの発達もワークスタイルに変化をもたらした。例えば、「上司が口頭で報告を受けるために、勤務時間を超えて営業社員の帰社を待つのは非効率だ」などと認識されるようになった。それにつれて、オフィス空間にも新しい試みが生まれる。
先陣を切ったのは、IT企業やコンサルティング会社だ。欧米流の経営を良しとする経営者は、新たなワークプレイスの形としてフリーアドレスをこぞって導入した。しかし、日本の企業文化はサッカーのように連携を重視した仕事のやり方が中心だ。いきなりフリーアドレスにして一人ひとり職務に従って仕事をせよ、と言われても現場はついていけず混乱するだけだった。
その頃、米国企業では、仕事を与えられた社員がチームを組んでコミュニケーションをとり、コラボレートすることが重視されるようになる。そこでコミュニケーションエリアやコラボレーションエリアが設置され、社員同士のの積極的な関与を促す仕組みがつくられた。
一方、職務に対応した環境に切り替えた一部の日本企業では、しばらくすると社員同士がお互いの仕事内容を意識し合わない事態が露呈した。そこで、コミュニケーションゾーンを設ける企業が増えていった。米国企業より5、6年遅い対応である。