巻頭インタビュー 私の人材教育論 後継者育成の原点は 現場で命題を見つける目
通信教育「進研ゼミ」をはじめ、教育、語学、生活、シニア・介護など幅広い領域で事業を展開するベネッセグループ。
同グループがめざすのは、顧客一人ひとりの学びと成長を生涯にわたり支援することだ。
昨年、経営トップに就任したのが、アップルや日本マクドナルドで経営手腕を発揮してきた原田泳幸氏。
「お客様視点」の強化を軸とした変革を進める原田氏に、人材育成に対する考えを聞いた。
「改革」と「変革」は違う
ーーコンピューター業界から外食、そして教育と、さまざまな業界で変革を進めてこられましたが、変革リーダーとして大切にしている信条について教えてください。
原田
たくさんありますが、社員によく言うのは、「改革」と「変革」は違うということです。改革はサバイバルですが、変革は“創造的破壊”です。継続的な成長のためには、好調な時こそ、痛みを伴う変革に取り組まなければなりません。不調に陥ってからだと、生き残りのための改革になってしまうんです。
お金を有意義に使うことで新しい商品・サービスを生み、それが顧客にとっての価値となる。その結果、業績が伸びて株主や社員にとっての価値となり、ステークホルダーの価値の連鎖につながる。これが変革です。逆に、例えば不採算店を閉めることはコスト削減にはなりますが、新しい価値を生みません。それよりも大切なのは、好調な時こそ投資をして組織として変化し、業績を伸ばしていく。この考えを社員にしっかりと伝えることです。
もう1つ大事なことは、顧客目線でものを考えることです。企業というのは、顧客価値を高め続けてこそ、継続的な成長ができます。では、顧客価値を高めるためにはどうすればいいか。例えば、企業活動を全て棚卸しして、お客様が対価を払ってくれないようなコスト構造のところは、なくさなければいけません。それによって生まれた原資を、顧客接点のところに持っていく。当社の進研ゼミで言えば、お客様とのハイタッチ(人的サポート)を重視して新たに立ち上げた、地域の学びの相談窓口である「エリアベネッセ」に投資をシフトしています。
経営に必要なのは“肌感覚”
原田
一番難しいのは、何のために変革をしていくのか、全社員とコミュニケーションをとって共通理解を持つことです。戦略を語るのは簡単ですが、実行することが一番難しい。ですから、戦略の中身についての議論は5%ほどでいいのです。95%以上は実行に関する議論をしっかりと行うことや、うまく実行されているかどうかをタイムリーに把握しながら、ナビゲートしていくことが非常に重要です。
よくPDCAの重要性が語られますが、年に2回しか回らないようなPDCAなら、回す意味はありません。大事なのは、毎日見ることです。
リサーチから判断するのではなく、リアルタイムで顧客の反応を見る。目を見れば、すぐに分かります。経営は数字や指標だけではなく、肌感覚が大事なのです。
ーー肌感覚を身につけるのは難しいことではありませんか。
原田
正直に言えば、ベネッセには肌感覚が身についている部署もあれば、足りない部署もあります。進研ゼミは通信教育ですから、これまで顧客接点があまりありませんでした。そこで、現在エリアベネッセに社員がシフトして、顧客接点を持ってお客様から学ぶことに取り組んでいます。