常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第4回 東洋の知から人づくりを考える
自然はいわば「知の宝庫」。米国流だけがお手本ではありません。人と企業が生き抜くための知恵を、東洋思想が伝える自然の摂理から学ぶべきでは。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、提言します。
東洋思想を今に活かす
バブル経済崩壊後の二十数年、日本は西洋流、特に米国流のものの考え方をひたすら追いかけてきました。しかし、米国が行き詰まりを見せている今、東洋の思想を企業の生き方、経営手法などの参考にすべきだ、と私は考えています。
東洋思想の根源にあるのは、「自然の摂理」-自然を支配している理法-です。自然界に存在するものは全て自然の摂理のもとにあります。もちろん人間も自然の一部です。そこで古いにしえの賢者たちは、人間とは、人間の集団とは何か、さらにさかのぼって、自然とは、宇宙とは何かを考察しました。
例えば、昼夜の関係や天候の動き、春夏秋冬の循環といった自然の変化を観察する中から、「人間は自然の摂理に則って生きるべし」と考えたのです。こうした考えを体系的にまとめ上げたのが中国の「陰陽・五行」の思想です。
陰陽については、既に連載第1回で紹介しました。五行とは、物事の本質的な要素である「木もく・火か・土ど・金ごん・水すい」の5つの行(万物の存在を成り立たせる潜在的形成力)のことです。
この五行を円状に描き、隣り合う行の関係を見ると、木は火を生み、火は土を生み……というように、互いに強め合い、協力し合っています。これを「相そう生じょう」と言います。逆に、1つおきに行の関係を見ると、木は土の養分を吸い取り、火は金を溶かし……というように、互いに牽制し合い、反発し合っています。これを「相そう剋こく」と言います。
5つの行は互いに結びついて円環を成していますが、絶えず生成と消滅を繰り返し、その動きの中で相生と相剋の調和が保たれています。