第33回 帝国ホテルの電話オペレーターはなぜ感じがいいのか 一流の“声のおもてなし”の秘密 蛭田 ひとみ氏 帝国ホテル東京 オペレーター 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
帝国ホテルといえば、伝統と格式を誇る名門ホテル。
世界中のVIPを迎えるホテルだけに、外部からの全ての電話には専門のオペレーターが対応します。
帝国ホテルの「声の玄関」、オペレーターの現場にお邪魔しました。
「ありがとうございます。帝国ホテルでございます」
帝国ホテルに電話をかけると、さわやかで気品ある第一声が聞こえてきます。丁寧にこちらの話を聞き、聞き取りやすいスピードで用件を復唱、確認しながら的確に対応するその応対は、言葉遣いも美しく丁重です。それでいながらどこか親しみやすさもあって何とも感じがよく、「さすが帝国ホテル」と思わせるものがあります。
1日に約1300 件、多い時は1500 件もの電話を受けているのは、ホテル内にあるオペレーター室です。電話専門の女性オペレーターは29 名おり、全員が社員。うち4、5 名ずつが夜勤も含む3交替勤務で、「明るく元気に笑顔で接客」をモットーに24 時間365日対応しています。
帝国ホテルの「声の玄関」とも言われるオペレーターは、いったいどのようにして一流の電話応対を学んでいるのでしょうか。
それを探るべく訪れたのは、東京都千代田区にある帝国ホテル東京のオペレーター室。電話交換機が数台並び、壁にはさまざまな情報や注意事項、よく使う英語の言い回しなど掲示物が目を引きます。一見、ホテルらしい優雅な雰囲気とは無縁の空間ですが、そこには帝国ホテルならではの一流のおもてなしを生み出す秘密が隠されていました。
オペレーターの仕事
業務内容について説明してくださったのは、オペレーター歴25 年、管理職としてオペレーターの指導育成に当たる蛭田ひとみさんです。「オペレーターの業務内容は大きく2つに分かれます。1つは『接続業務』。ご宿泊や、ホテル内のレストラン・バー17店舗のご予約など他部署への取次ぎ、宿泊中のお客様への電話のお取次ぎなどです。もう1つは道案内やさまざまなお問い合わせに応える『案内業務』です」。
着信して3 秒(1コール)以内に電話を取るのが基本。モニターには電話がかかってからの秒数が表示されるようになっており、3秒以上待たせたら、「お待たせいたしました」。3コール以上なら「大変お待たせいたしました」と電話に出ます。
「電話に出たら、メモを取りながらお客様の要望を聞き、まずは他部署や客室などへ接続すべきか、自らご案内するべきかを判断します」(蛭田さん)。最近では、外国人旅行客の増加により、外国語で対応することも増えてきており、「日中でも3割ほど、夜間になるとほぼ大半は外国語の電話」だといいます。