OPINION2 日本企業の人材レベルは世界トップクラス 人材から最大限の能力を引き出す 戦略人事3つのポイント
不透明な時代を生き抜くうえで、ますます経営と人事の融合が必要となる中、日本企業における戦略人事はなかなか定着しない。その理由とは――長く人事の実務家として戦略人事を推進し、現在は人材戦略コンサルタントとして活躍するトム・ペダーセン氏がグローバルな視点から語った。
戦略人事が重要な理由
戦略人事の重要性がかつてないほど高まっている。その要因がビジネスのグローバル化にあることは言うまでもない。今後は国内市場の成長が見込めず、多くの日本企業は海外市場に成長の源泉を見出している。この新しい環境において成長を推進するのは従業員であり、彼らの能力開発こそが成功のカギを握っている。
一方、世界の市場はダイナミックに変化しており、ビジネスを取り巻く環境は不安定だ。この状況はVolatility 〈変動性〉、Uncertainty 〈不確実性〉、Complexity 〈複雑さ〉、Ambiguity〈曖昧さ〉の頭文字を取って「VUCA」と呼ばれる。混沌として先の読めない状態の中、グローバリゼーションやイノベーションのサイクルは高速化し、競争は激化している。
エレクトロニクス産業を例にとれば、台頭しているのは新興国メーカーや、先進的なハードウエアとコンテンツでビジネスモデルを展開する企業だ。高い品質と生産性を誇り、画期的な商品を生み出してきた日本の家電メーカーは、苦戦を強いられている。
また、日本企業が築き上げてきたエコシステム(産業構造)は、新興国企業の台頭、先進的なビジネスモデルで世界を席巻する企業に破壊された。かつての日本企業の成功法則はもはや通用しない。
こうした変化は、海外にいると切実に感じ取れる。例えばシンガポールに行くと、新興国については話題に上っても、誰ひとり日本のことを話していない。長年日本で働いてきた私にとって、これは大変ショッキングなことだった。
なぜ日本企業は世界の潮流に乗り遅れてしまったのか。理由の1つは人材にきちんと投資をしていないことだろう。また、日本国内でビジネスを拡大するうえでは有効だった人材開発施策が、日本ほど洗練されていない国でもそのまま通用するとは限らない。新興国でのビジネスで収益を上げるには、明確な戦略が必要になる。
変わるリーダーの資質
人事はどんな戦略を描くべきなのか。まず、歴史的な変化を押さえておこう。日本企業のグローバル戦略の中心であるアジアの市場やビジネスは、ここ数十年の間に劇的に変化しており、それによって求められるリーダーのコンピテンシー(能力・行動特性)も変わってきている(図1)。その変遷は大きく3つの時代に分けられる。
1990 年代までは「Productive Era(生産の時代)」で、コストの安いアジアが世界の工場となり、そこで生産されたものが世界各地へと輸出されていった。2000 年代に入って「AdaptiveEra(適応の時代)」が到来。アジアの人々の所得が上がり、消費が活性化されたことで、アジア各国のニーズに合うものがつくられていった。それにつれ、求められるリーダーのスキルも、計画実行やプロセス管理から、顧客重視、洞察、チームビルディングなどへと変わっていった。
2010年以降の「Generative Era(創造の時代)」では、アジアが消費や創造の中心地となり、イノベーションやアイデアが何よりも重要とされるようになった。リーダーは、多彩な背景や思考を持つ人々を集め、彼らの発想を活かさねばならない。新たに彼らに求められているのは、ダイバーシティに富んだチームをつくるスキル、その能力を最大限発揮させるスキルだ。
ただ、こうした能力を従来の日本企業の環境で身につけるのは時間がかかる。また、スキルを発揮する場が限られている場合、人事が適切な人材を見極めることも難しい。