TOPIC 人事・教育責任者フォーラム2015 レポート これからのリーダーの必須スキル コンフリクト・マネジメント
2015年7月、東京で「人事・教育責任者フォーラム2015」が開催された。
「コンフリクト・マネジメント」をテーマに3名のゲストが登壇し、企業事例や研究内容など、それぞれの視点から講演を行った。
当日の講演内容を一部紹介する。
【はじめに】コンフリクト・マネジメントの重要性とは
近年の人事、人材育成の場ではグローバルや女性活躍、ダイバーシティといったキーワードが欠かせなくなっている。そのような組織を率いるリーダー・管理者には、さまざまなぶつかり合いをマネジメントする能力が求められている。
しかし、意見や利害の衝突や対立を積極的に受け入れ、問題解決を図ろうとするコンフリクト・マネジメントを企業で実際に行うには多くの課題がある。
今回の「人事・教育責任者フォーラム2015」では、組織コンサルタントの船川淳志氏、日本通運の近藤廣司氏、武蔵野大学経済学部講師の宍戸拓人氏の3名が登壇し、それぞれの立場からコンフリクト・マネジメントに対する見解を述べた。また、最後は3者によるパネルディスカッションが行われた。
【第1部】グローバル・チームをいかに運営するか
船川淳志氏 グローバルインパクト 代表パートナー
コンフリクトを乗り越えるには
私は組織コンサルタントとしてグローバルな舞台で現場の対立に多く触れてきた。今回、私の経験からコンフリクト・マネジメントについての見解を述べたいと思う。
まず、コンフリクトと一口に言われているが、コンフリクト(Conflict)に似ている単語としてContention(競争)、Contention management(競争管理)、Contention resolution(競争解決)、似て非なるものとしてConfrontation(対立)が挙げられる。これらは衝突や対立を意味し、あまりよいイメージは持たれていない。
しかし、インテルでは対立をうまく活かしており、行動指針にも表れている。それが、“ConstructiveConfrontation(建設的な対立)”だ。そして、これと共に掲げられているのが“Disagree and Commitment”である。これは「会議やプロジェクトの際に賛成・反対を遠慮せずに発言する。そして納得した、あるいは時間を費やして決めたのであればコミット(参加)せよ」という意味だ。
この行動指針を守るうえで大切なのは、「反対意見を言われても不機嫌にならない」ということだ。お互いに知的格闘技を楽しむくらいの余裕が大切になる。しかし、現実的にそのような対応を行うのは難しい。
もし、意見が異なっても両者が共に働くことがなければ、コンフリクトとは呼ばずに「Dis-agreement(意見の不一致)」と呼ぶ。しかし、グローバルビジネスは基本的にいつでも、どこでも、どこの国の人たちとでも一緒に働くことが求められる“ユビキタスコンフリクト”だ。コンフリクトを超えて、どのようにコラボレーションできるかが現在の課題だといえる。
氷山の下を考える
対立は変革が起きた際や、組織構成員の多様性が高くなるほど起きやすくなる。日本は今まさにこの両方が起きやすい時期だ。
しかし、日本でコンフリクト・マネジメントを行うには、日本語ならではの文化が1つの課題になっている。日本語は雰囲気や背景、脈絡で判断する要素が多いローコンテンツ、ハイコンテクスト文化だ。ところが、英語はもちろん、ドイツ語やラテン語などのヨーロッパ言語は言葉にして語らなければならないハイコンテンツ、ローコンテクスト文化になる。他の言語と比べて、日本語でコンフリクト・マネジメントを行うのは難しくなるといえる。
また、グローバルでのコンフリクトにおいては、言語だけでなく文化の違いも考えなくてはならない。
言葉や服装、振る舞いなどの姿勢は目に見えるが、見えない部分にこそ、その国の文化や考えが隠れている。そのため、海に浮かぶ氷山に例えれば、その“下”を考えることが重要になる。
ここで役立つのは科学や哲学などの共通理解だ。例えば、CO2が国境を越えてもCO3にはならないように、科学の常識は世界の共通言語であるからだ。これがグローバルマネジメントには欠かせない要素になってくる。
カッツ・モデル(図1)で語られている中では、コンセプチュアルスキル(概念化能力)が特に重要になる。言葉では語られない部分を考えて行動する力を身につけることで、コンフリクト・マネジメントが行いやすくなる。
また、対立をタックマン・モデル(図2)に当てはめた時に重要だと考えられるのが「水面下で起きているコンフリクト」の吸い上げである。この改善策としては、目安箱のように、コンフリクトの受け皿を先に知らせておけばよい。そうすることで、意見の吸い上げと可視化ができる。