常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第3回 モノづくりと人づくりへの循環
日本の命綱、モノづくり。しかしどんな成功も永続はしません。改めて質で勝ち続けるモノづくりとは。そして、そのために不可欠な人づくりとは。元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、提言します。
モノづくりの心
モノづくりの世界では、量から質への転換が叫ばれて久しいが、日本企業は依然として量のほうに走りがちです。連載第2回で述べたように、グローバル競争の中では、製造業の優劣はコスト、効率、スピードなどの尺度で測ります。しかし、これは「量」の勝負であり、その中に入り込めば、人件費や原材料費などの高い日本がいくらあがいても中国、韓国、台湾をはじめとする新興国に対し勝ち目はありません。これからは「質」の勝負でしか勝てないという認識を持つべきでしょう。
質で勝負するには、使い手(買い手)に対する作り手(売り手)の「心」や「思い」をモノに織り込んでいくことが必要です。技術(性能・機能)の開発だけでなく、質や価値(作る喜び・使う満足)の開発も大事です。
一方、これからはモノよりもサービスの時代だ、という意見があります。しかし、モノなしではサービスは成り立ちません。情報技術(IT)の時代といわれるが、その土台はモノ、すなわち高度かつ精密な情報機器です。いつの時代も、人はモノと重なり合って生きています。人の暮らしがある限り、モノづくりは不滅です。またモノづくりは日本の文化と深く関わっています。モノは豊かな生活文化を育み、同時に文化はより高度なモノづくりを促しているのです。あらゆる産業の源でもあるモノづくりを他国に委ねてはなりません。モノづくりは日本の命綱なのです。
効果の逆転を起こすな
モノづくりを議論するとき、いくつか重要な視点があります。1つは「効果の逆転」です。