OPINION2 絶好の成長機会を活かす 人事評価のフィードバックを学習につなげるには
目標管理制度における面談時、上司・部下間で話し合った内容や、上司からなされるフィードバックを、より部下の成長やパフォーマンス向上につなげるには、どうすればよいのだろうか。
組織における評価と人の行動との関係について詳しい、西南学院大学教授の柳澤さおり氏に寄稿いただいた。
人事評価の意義とは
フィードバック(以下FB)の話をする前に、人事評価を行う意義を確認しておきたい。これについては、「組織」と「個人」のレベルに分けられる。
●組織レベルの意義
まず組織にとっての人事評価の意義とは、結果を「組織目標の達成度のマネジメント」、および「人のマネジメント」にそれぞれ利用できることである。
1つめの「組織目標の達成度」は、目標に関わる課題を遂行する部門や部署の成果によって測られる。その成果は、所属するメンバーの成果や人事評価に基づくものだ。それらをマネジメントする人事評価の役割として、最も理解しやすいのが目標管理制度の運用であろう。
そして2つめの「人のマネジメント」だが、成果主義の浸透と共に、評価結果が処遇(昇格や昇進、昇給や賞与、配置転換、教育訓練)に反映されるようになった。人事評価をこのような形で人のマネジメントに利用することで、組織はメンバーの能力や適性に合わせて職務の遂行や訓練を行えることになる。また貢献度に応じた処遇をすることで、メンバーに公正感を抱かせることや、モチベーションの維持、高揚も期待できる。人事評価を処遇に反映させることは、個人の個性や能力を活かした組織運営を可能にするのである。
●個人レベルでの意義
個人にとっての人事評価の意義は、評価する管理者と、それを受けるメンバーのどちらにもある。
管理者にとっては、メンバーの個々の能力などを把握し、職場運営や職場目標のマネジメントに活かせるという点が大きい。
また、人事評価に伴う面談の意義も見逃せない。人事評価面談は、多忙な職場において一定の時間、通常業務の遂行と切り離された空間で、管理者とメンバーが個別に対話できる数少ない機会だ。この場では評価に関する話だけではなく、メンバーの悩み、今後のキャリアに関することなど、さまざまな事柄についても話し合い、把握することができる。
1対1の関係づくりにも適しており、管理者とメンバー間の関係をよいものにする絶好の機会である。最近のリーダーシップ理論でも、上司と部下の関係性には注目が集まっており、その良質な関係がメンバーの成長や成果の向上につながることがわかっている。
そしてメンバーにとって人事評価の意義は2つある。1つは、欲求の充足である。人は「自分の能力を正確に評価されたい」という基本的な欲求を持っており、職務遂行態度や行動の良し悪し、成果についてFBを受けることによって、その欲求を充足させることができる。
もう1つは、長所や短所を含めた自己理解を深め、改善点を把握することで、能力や成果を高めるために今後何をすべきかを知る、つまり新たな学習の手掛かりを得られることだ。これは、その後のキャリアを展開させることにもつながる。
評価FBと学習
近年、人事評価の役割として、上記の、メンバーの能力や成果の向上につながる新たな学習の促進が特に重視されている。この機能を果たすのが、人事評価のFBである。
FBの内容は、ポジティブ情報とネガティブ情報に分けられ、学習へのアプローチもそれぞれ異なる。
ポジティブFBは、メンバーのパフォーマンスがよいこと、優れていることを意味し、メンバーの「できる」という自信(自己効力感)を高め、新しい課題や高い目標への挑戦を促す。そして学習を引き起こす原動力となる。